シブヤまちづくり散歩とは
未来のシブヤはどんな街? 渋谷区では、様々な社会状況の変化や、技術革新を踏まえた上で、「渋谷区基本構想」をまちづくりの視点から実現化する「渋谷区まちづくりマスタープラン」(以下「渋谷区まちマスプラン」)の策定が進んでいます。2017年9月に始まった「渋谷区まちマスプラン」をはじめ、シブヤで行われる様々なまちづくりの取り組みを追いかけます。
「子どもの頃は、地域のみんなで焼き芋を焼いたり、缶蹴りをしたりして過ごしました。そんな代官山も、今ではすっかりおしゃれな街になっていますね。キャッスルストリートも、昔は『○○商店』とか、布団屋さんといったお店が多かったのですが。あの頃のような、子どもの遊び場は減ってしまいました。」
こんなエピソードを話してくれたのは、株式会社佐藤商会の佐藤貴一さん。佐藤さんは、2000年に代官山アドレスに生まれ変わった「同潤会代官山アパートメント」で幼少期を過ごしました。高級住宅とカフェやブティックが立ち並ぶ若者の街にも、昔は地域住民のコミュニティがあったのですね。
渋谷から代官山は、渋谷の再開発にともない、今後ますます大きく生まれ変わっていくエリア。これまでの変遷も目の当たりにしてきた佐藤さんは現在、代官山らしさを活かした施設の運営に携わり、まちづくりの一助を担おうと活動しています。
代官山らしさ=「子ども×クリエイター」!
佐藤さんが運営に携わる施設の名前は、「SodaCCo」。運営主体である佐藤商会は、もともと石炭商店で、50年ほど前からガソリンスタンドを経営していました。代官山にあるガソリンスタンドの隣にあった築44年6階建てのオフィスビルを所有することになり、blue studioにリノベーションを依頼したのが「SodaCCo」の始まりです。
コンセプトは「子どもとクリエイターの『育つ』が出会う、みんなのビル」。施設の1〜3階は、レンタルスタジオと、子どもをテーマとした事業者向けのテナントスペース。4階〜6階には、クリエイター専用シェアオフィス(co-lab代官山)があります。
「ソダッコ」の語源は、交流から生まれる「育つ」と「発見=そうだ!」。ビルを船に見立てたデザインにすることで操舵もかけているそうです。取材当日はあいにくの雨模様でしたが、2階のデッキテラスは、マストが張られた船のよう!
「SodaCCo」があるのは、代官山駅から続く商業エリアと、鶯谷町などの住宅街の中間あたり。その立地を生かし、単なるテナントオフィスではなく、街に住む人や働く人の地域交流の拠点にしたいと、オープン前にはコンセプト作りを徹底的に行ったのだとか。
「当初の担当は別の者でしたが、企画に携わったメンバーに子育て中の者が多かったこともあり、子どもが過ごしたり遊んだりする場所がないという話になったそうです。でも、代官山にあるものを考えると、子ども服やベビーカーなど子ども向けの商材を扱う店舗は多い。そして、渋谷や代官山で活動するつくり手もいる。そこで『子ども』×『クリエイター』というキーワードが出てきて、両者が融合する場にしようと決めたそうです。」
多くのクリエイター達が仕事をするco-lab。雨にも関わらず、外からの光がしっかり入ってきていたのは、採光を考えられたリノベーションのおかげのよう。この他にも、個室で仕切られたブースもあり、150人ほどのクリエイターが入居中です。(人気につき、常に空き待ちしている人がいるそうなので、入居希望の方はご注意を!)
ミーティングルームも、おしゃれさと落ち着き加減がちょうどいい。こんなところで仕事したい! と興奮してしまいました。
ランチミーティングから生まれた、屋上菜園プロジェクト進行中!
SodaCCoのオープンは2015年。佐藤さんが「SodaCCo」の担当になったのは2年ほど前だそうですが、課題も感じています。
「オープン当時は、施設全体のプロジェクトリーダーがいて、子どもとクリエイターが交わるためのイベントなどを盛んに企画していました。そのリーダーも段々と忙しくなって、手が回らなくなってしまい、最近ではあまり目立った企画ができていません。またイベントを開催して盛り上げたいですね。」
そんな思いから、佐藤さんは、co-labの入居者や、子ども向け商材を扱うテナントを集め、月に1回ほどランチミーティングの機会を設けているそうです。各自が取り組んでいる活動について話したり、コラボレーションできる可能性がないかを相談したり。そうする中で、屋上菜園をやろうという話が持ち上がり、いま実際に計画進行中だとか。
「屋上の有効活用ができていなかったので、入居テナントの代官山ワークスとco-lab代官山と協力してやろうと、屋上菜園の計画を進めています。考えているのは、収穫祭や、採れた野菜を2階のキッチンで料理して食べるイベントなど。BBQやビアガーデンもいいですね。子どもたちも含め、ご近所の方にも来てもらえたら嬉しいです。」
代官山のビルの屋上で、野菜作りに収穫祭! なんだか聞くだけでワクワクする響きですね。
代官山を360度一望できる屋上。今はガランとしていますが、屋上菜園でどう生まれ変わるのでしょうか。
建物の魅力も生かし、地域交流イベントを仕掛けていきたい
佐藤さんにとって、これまで開催された中で忘れられないイベントは、2015年に開催した「SodaCCoマルシェ夏祭り」。入居するクリエイターやテナントを巻き込み、ワークショップやお店がたくさん開かれたこのイベント。地域の方も多く訪れ、大盛況の様子は、映像にも残っていました。
SodaCCoが目指す「子どもの遊びから好奇心や発見が生まれていくこと」と「クリエイターが遊ぶように仕事をすること」がかけあわされると、こんなにたくさんの笑顔が生まれるのですね。
「これからのSodaCCoは、入居者や地域の人が自ら発信する交流イベントを手助けできるような場所にしていきたいです。屋上菜園での企画をはじめ、また様々なイベントを仕掛けて、子どもを含めた地域の方と、SodaCCoに関わるクリエイターの出会いをつくっていければ。」と話してくれた佐藤さん。
遊びと仕事のクリエイティブな関係を目指し、佐藤さんの挑戦はまだ始まったばかりのようです。
地域交流も目的に作られたSodaCCoは、1階のエントランスにピロティが設けられるなど、外部からもふらっと入りやすい作り。イベントがない時でも、近くを通りかかったら、ぜひ立ち寄ってみてください。
1階は、レンタルイベントスペース(SodaCCo STUDIO)。その前面には、開放的なピロティが。SodaCCo STUDIOとあわせて、ワークショップやセミナー、展示会など、様々な用途で使えます。屋根もあるので、雨が降っても安心。
メインエントランスは2階。以前はカフェがありましたが、残念ながら2018年7月末に閉店。取材時は期間限定のポップアップショップが展開されていました。今後はお楽しみ、とのこと。
街には、昔から住んでいる人がいることも忘れないでほしい
最後に、いま進んでいる渋谷周辺での再開発への思いを伺いました。
「私が生まれ育った鶯谷町をはじめ、代官山には昔から住んでいる人も多いのです。再開発は、そのような人たちとの折り合いも考えながら進めてほしいですね。急激に変わるのではなく、少しずつ。まちづくりには、長期的な視点が必要だと思います。渋谷から代官山、そして中目黒まで、人の流れができることに期待しています。SodaCCoも、まちづくりの一助を担っていきたいですね!」
株式会社佐藤商会の佐藤貴一さん(左)と、建物の管理をしている有限会社アーバンリゾートの平出直樹さん(右)
「SodaCCo」が、ただおしゃれなだけではない、地元に思い入れのある方が運営に携わっている施設なのだと分かり、なんだか嬉しくなった私。試行錯誤しながらも、愛する地元のためにと取り組むまちづくりへの試み、これからに期待しています。焼き芋や缶蹴りをしていたあの頃のように、「SodaCCo」でたくさんの子どもたちの笑顔が生まれますように!
シブヤ散歩新聞では、渋谷の再開発についても、追いかけて行きますよ。来週は、いよいよ秋にオープン予定の「渋谷ブリッジ」「渋谷ストリーム」の取材記事を公開予定です。どうぞお楽しみに!
黒木瑛子(くろき・えいこ)
東京の多摩地域に暮らすライター。都心育ちだけど都心の人混みはちょっぴり苦手。京王線ユーザーなので、渋谷駅よりも新宿駅派。でも「新宿のようで実は渋谷区!」なエリアの散歩は大好き。シブヤ散歩新聞では、「ほぼ新宿」な渋谷エリアの魅力を発掘予定。散歩をしていると、レトロな喫茶店、古い絵本や古道具の置かれた雑貨店など、「古き良き」な雰囲気のものに引き寄せられます。