渋谷レジェンド散歩とは
渋谷の街で、数十年。人々に愛され続けた歴史を誇るお店や会社をご紹介するのが、「渋谷レジェンド散歩」です。渋谷といえば「若者の街」といわれますが、実は、長きにわたって活躍している人や商品、サービスがたくさんあります。そんな渋谷の意外性ある魅力をお届けしていきます。
1993年のオープン以来、地域の「食材庫」として自家製パンをはじめとした様々な食を提供し続けるヒルサイドパントリー代官山。後編では、代官山という街で26年間続いているお店の魅力について、さらに詳しくお伝えしていきます。
「お昼を食べたい!」が形に。デリカテッセンが生まれるまで
お昼時になると、近隣のオフィスに勤めている人たちが、デリカテッセンに昼食を買いにやってきます。
デリカテッセンを始めたのはお店をオープンして数年経った頃。「お昼にランチを食べたい」「持ち帰って食べられるような食事がほしい」というリクエストを受けたことが始まりだったそうです。
どんな風にして今のかたちになっていったのか、オーナーの朝倉さんに伺いました。
「リクエストを受けて、まずはお弁当を仕入れてみたんですが、そのうちスタッフ間で『パンがあるんだからサンドイッチならば作れるんじゃないか』という話になって、サンドイッチを出し始めたんです。それから、飲食経験があるスタッフが入ってきて、『せっかく店内に食材がたくさんあるんだから、それを使って作ってみたい』と、サンドイッチ以外の提供も始めました。キッチンもなかったので、事務所だったスペースを少しずつ改装しながら、少しずつ提供できるものを増やしていきました。それでだんだん、デリをひとつの部門としていこう、という流れになったんです。」
店内でもいただけるランチセットも好評です。
手を動かしながら生まれる新しいお店のかたち
コーヒーコーナーやひときわ目をひく壁一面の棚も、長い間に少しずつ変えていった結果、今のかたちになったのだそうです。
「棚を眺めていると、いかにも食材庫だという感じがしますね」とお伝えすると、
朝倉さんからは、「最初からがちっと決めていた訳ではないんです」という答えが返ってきました。
「こういうのって、実際にやってみないとわからない部分もあるんですよね。棚をなくしてみたらどんな雰囲気になるだろう、がらんとしすぎているんじゃないか、とか、いろいろ考えながら、手を動かしていってみたら、意外と綺麗に収まったなあ、という感じです。」
パスタの棚とオイルや塩の棚が隣り合っていたり、ワインとチョコレートを近くに置いていたりと、まとまりやつながりがだいじにされていることがわかります。機能的で楽しい食料棚です。
手をかけながら、お店を続けていく
26年前には珍しかった輸入食材も、今では一般的なスーパーで手に入るようになりました。通販の世界に目を向ければ、希少なワインやオリーブオイルが1本単位から手に入る時代です。オーガニックや産地限定にこだわったお店も増えてきました。そんな今、ヒルサイドパントリー代官山に必要とされていることは何なのでしょうか。
「そういう時代だからこそ、ふつうにおいしいものが手に入る『近所のお店』でありたいんです」と朝倉さん。長いあいだには、オーガニックにこだわったり、どこにもない商品を置くことに注力した時期もあったそうですが、
「気軽に使ってもらうには、結局みんなが使いやすいものを置くことがいちばん大事なんですよね。結局、ふつうに手に入るけどおいしくて質が良いものを選ぶという風に、自然と変わっていきました」(朝倉さん)
一方で、近隣の恵比寿や中目黒エリアと異なり、人の流れの少ない代官山でやっていくことに、難しさを感じることもあるそうです。それでも続けていられるのは、このお店があることを貴重だと思ってくださる方がいらっしゃるから・・・そう朝倉さんは語ります。
「ここのお店らしくあるために変えていってはいけないところもあるし、お店として残っていくためには変えていかなくてはならないところもあります。それを、少しずつ手を動かしながら試行錯誤していく。それは、大きなお店でないからこそできることかもしれません」(朝倉さん)
暑かった夏の盛りも過ぎ、これから気持ちのいい季節です。代官山は、あまり目的を持たずにぶらぶら歩くのにちょうど良い街です。そんな散歩のおともに、ヒルサイドパントリー代官山のパンやデリをぜひ楽しんでくださいね。
【店舗情報】
ヒルサイドパントリー代官山(株式会社朝倉商会)
東京都渋谷区猿楽町18-12
ヒルサイドテラスG-b1
TEL/03-3496-6620
営業時間/10:00~19:00
定休日/水曜日(祝日の場合営業)
http://hillsidepantry.jp/
八田吏(はった・つかさ)
ライター。
NPO法人で、産後の社会問題に関する調査研究に携わる。個人活動として短歌の会を隔月で開催。自宅から一番近い繁華街が渋谷なので、映画に行くのも友達とのお茶も、本や洋服などの買い物も、だいたい渋谷区内で完結しています。