シブヤまちづくり散歩とは
未来のシブヤはどんな街? 渋谷区では、様々な社会状況の変化や、技術革新を踏まえた上で、「渋谷区基本構想」をまちづくりの視点から実現化する「渋谷区まちづくりマスタープラン」(以下「渋谷区まちマスプラン」)の策定が進んでいます。2017年9月に始まった「渋谷区まちマスプラン」をはじめ、シブヤで行われる様々なまちづくりの取り組みを追いかけます。
2018年9月13日、ふたつの大きな施設が渋谷駅南側エリアにオープンします。「渋谷ストリーム」と「渋谷ブリッジ」。かつて東急東横線が地上を走っていた場所にできたこれらの施設、渋谷と代官山という人気のエリアをつなぐこともあって、開発当初から話題になっていました。
今回、シブヤ散歩新聞では開発担当者である東京急行電鉄株式会社(東急電鉄)の杉本里奈(すぎもと・りな)さんと幡場喬二(はたば・たかじ)さんに取材をお願いし、「渋谷ストリーム」と「渋谷ブリッジ」ができることで渋谷の街がどう変化するのか、お話をうかがってきました。
渋谷再開発プロジェクト、渋谷駅南街区プロジェクトと渋谷代官山Rプロジェクトって?
東急東横線が地下化されたのは2013年3月。旧東横線渋谷駅のホーム、線路跡地およびその周辺地区と地下化した東横線の地上跡地や周辺敷地を活かした再開発「渋谷駅南街区プロジェクト」と、渋谷-代官山間の東横線線路跡地を活用した「渋谷代官山Rプロジェクト」が進められてきました。2つのプロジェクトによって建設されたのが、渋谷駅南側エリアに今回できた渋谷ストリームと渋谷ブリッジ。杉本さんは言います。
「渋谷駅の南側はこれまで国道246号によって中心街と分断された状態でした。また、渋谷で働いている私自身そうだったのですが、渋谷から代官山までは距離感がつかめなかったり、かつての東横線沿いは高架下で一部暗かったり……といった理由で、歩いて行こうと思う人は少なかったのではないでしょうか。そういった課題をまずは利便性を高めることで解決しつつ、人が集まる場所、歩きたくなる場所になるよう開発されたのが渋谷ストリームと官民連携により整備を行う渋谷川沿いの遊歩道、そして渋谷ブリッジです」
東急電鉄の幡場さん(左)と杉本さん(右)
人と人、人と街とのつながりが生まれるエリアに
渋谷駅の南側を出ると、目に入るのが大規模複合施設、渋谷ストリーム。渋谷から代官山へと向かう場所に位置しています。さらに渋谷川に沿うように遊歩道が続き、その先には渋谷ブリッジのA棟・B棟が建ちます。渋谷ブリッジはカーブを描いたような形が特徴的です。
渋谷ストリームと渋谷ブリッジの位置(C)東京急行電鉄株式会社
「渋谷ブリッジは、認定こども園やホテル、オフィス、店舗の様々な用途を持った複合施設になります。渋谷ストリームと比べると規模は小さいですが、位置的には渋谷でもあり、代官山でもあり、恵比寿でもある、街の中間地点のような非常におもしろい場所になっています。そこに渋谷ブリッジのような新たに人が集まる施設が存在することで、人と人、人とエリアがつながる場所になればと考えています」(杉本さん)
たとえば、A棟の認定こども園は、東京の町田市でしぜんの国保育園を展開している社会福祉法人東香会が保育所型認定こども園「渋谷東しぜんの国こども園small alley」を10月1日に開園。都内でも待機児童が多いこのエリアのためという目的もありますが、子どもを預けている家庭以外の人も気軽に立ち寄れるような工夫がされています。
「渋谷東しぜんの国こども園small alley」が開園するA棟のイメージ図(C)渋谷ブリッジ
「渋谷ブリッジの1階が渋谷川沿いの遊歩道からそのままつながって、1階の部分も通り抜けられるようになっているのですが、その自由通路沿いに子育て支援施設がオープンします。子育て支援施設にはカフェがあったり、ワークショップ等のイベントができる場があったり、これらを中心に人と人とが交流できるようになる予定です。認定こども園に来るつもりはなかった人も、イベントなどに参加することで新しい出会いに触れられたらいいなと思っています」(杉本さん)
渋谷といえば、子どもも一緒に行ける場所は、こどもの城や東京都児童会館の閉館にともなって、限られた場所になっていました。でも、今後は、この渋谷ブリッジに子ども連れの人や子どもたちの笑い声が増えることで、渋谷とも代官山とも恵比寿ともいえるこのエリアが、人にとってあたたかく心地いい場所になるかもしれません。
「渋谷ブリッジのこだわりの一つとして、手作り感やクラフト感が感じられるところがあります。シングルやダブルの一般的な個室の他に、2段ベッドが3つある部屋を6人でシェアするなど多様な客室を備えたB棟の「MUSTARD HOTEL」(株式会社THINK GREEN PRODUCE)や、MUSTARD HOTEL 1階に併設され、地域の方々にもご利用いただけるカフェ・バー・パティスリー「Megan」をはじめ、全体的に人と人とのつながりに対してこだわりを持ったテナント様がそろっています。オープン後も、テナント同士やお客様、地域の方々とのつながりから新しい展開や変化が生まれることを楽しみにしています」と話すのは幡場さん。
MUSTARD HOTELの客室イメージ(C)渋谷ブリッジ
施設をきっかけに、渋谷と代官山の異なるエリアをつなぐということと共に、人と人、人と地域がつながっていく。その「橋渡し」をする。渋谷ブリッジの「ブリッジ」には、そんな意味が込められています。そして、こうした場所が昔、東急東横線が走っていた跡地にできる。高架橋があった当時の記憶も、この「橋」という単語に込めることで大切に残したいと幡場さんは話します。
「高架下が騒がしかったとか、高架下にあったあのお店が気に入っていたとか、そういった地元の方ならではのお話もたくさん伺いながら開発を進めてきました。みなさんの想いを大切にしたいですし、この開発をきっかけにこのエリアに来られた方が渋谷ブリッジだけでなく、周辺のお店にも足を伸ばし、街全体がより活性化することでみなさんに喜んでいただけたらと思っています」
渋谷ブリッジのコンセプト(C)渋谷ブリッジ
次の時代の流れをつくる
一方、渋谷駅南側に建つ渋谷ストリームの「ストリーム」には次のような意味があります。
「STREAMとは、流れや小川、絶え間なく続くという意味の単語ですが、渋谷ストリームに沿って流れる渋谷川を連想させるとともに、次の時代の流れを生み出していくという意味も込めています。ここから新しい何かが発信されたり、つくられていくことをイメージしています」(杉本さん)
コンセプトは、「クリエイティブワーカーの聖地」。渋谷といえば、IT企業やクリエイターが働いているイメージが強いのですが、その中でも、この渋谷ストリームは渋谷エリア最大級のオフィススペースを有した施設です。そのため、「クリエイティブワーカーにとって働きやすく、刺激を受けやすい環境を整えていきたい」という思いを込めて、丁寧に準備を進めてきたそうです。
「1階から3階は飲食店がならぶ商業ゾーンになっているのですが、渋谷で働く方たちのニーズを追求しました。たとえば、1個でお腹も気持ちも満たされるパン。フランスパン専門店の「メゾンカイザー」を手掛ける木村周一郎さんが、新たなブランドとして本格的な総菜パンを作り、販売します。そのほか、仕事帰りに目的がなくてもふらっと立ち寄って楽しめるお店が多数そろっています」
3階「Shibuya Court」のコンセプトは「大人の溜まり場」。隣のお店の様子が分かるオープンな空間になっている(C)渋谷ストリーム
オフィスが多い渋谷駅の南側。この渋谷ストリームの誕生で、仲間と一緒に楽しめることが増えそうです。そして、渋谷ブリッジも含めて、遊んだり、働いたりするだけではない、新しい楽しみ方を見つけ出せるエリアになりそうです。
官民連携により再生・整備される渋谷川沿いと遊歩道のパース(C)渋谷ストリーム
たとえるなら、南側は渋谷のB面。発見を楽しんでほしい
「今回のプロジェクトに関わって、私自身、発見したことがたくさんあります」と、オープンまでを振り返って杉本さんは言います。
「まず、渋谷と代官山は思っていたよりも近いこと。そして、その間にはおもしろい試みをしているお店や美味しいお店が数多く並んでいます。みなさんにも、ぜひ歩きながらそういった発見を楽しんでいただければうれしいです」
渋谷駅の南側を「渋谷のB面」と表現するのは、幡場さんです。
「渋谷の駅前といえば、センター街やSHIBUYA 109、渋谷ヒカリエなどのイメージが強いですが、南側はまだ明確なエリアのイメージが無い場所、色がついていない場所と感じています。一方で、このエリアの中には隠れた名店等が存在している。たとえるなら、ハチ公前などがA面なのに対して、南側はCDのB面のような場所。聞けば聞くほど、行けば行くほど新たな良さが見つかる。渋谷ストリームや渋谷川沿いの遊歩道、渋谷ブリッジを含めて新たな人の流れができることで、あそこおもしろくなってきたなとか、ぶらぶらと散歩してみようかなとか、そんな新たな発見につながればいいですね。ぜひ足を運んでいただければと思っています」
「渋谷は、まちづくりに関して地域の方々がとても関心を寄せてくださって、今回のプロジェクトにもたくさんの方々にお力添えをいただきました。東急電鉄は、鉄道を通して魅力的なまちづくりをするという使命を担った会社です。地域のみなさんと協力しながら、多くの人に訪れたいと思ってもらえる渋谷の街をつくっていきたいです」(杉本さん)
20代の若者が遊びに来る街。働く人が集まる街。そんなイメージが強かった渋谷がこの渋谷ストリームと渋谷ブリッジのオープンで大きく変わりそうです。子どもも、大人も、年齢や文化の壁を超えて、一緒に交じり合う街。楽しく、自分らしく。そんな渋谷の変化を、まずは散歩で感じてみませんか。
※本記事のトップ画像は、渋谷ストリームのイメージ図(C)渋谷ストリーム
【渋谷ストリーム】
住所/東京都渋谷区渋谷三丁目21番3号
https://shibuyastream.jp/
【渋谷ブリッジ】
住所/
(A棟)東京都渋谷区東一丁目29番1号
(B棟)東京都渋谷区東一丁目29番3号
https://shibuyabridge.jp/
インタビュー/界外亜由美(かいげ・あゆみ)
シブヤ散歩新聞・編集長。クリエイティブ・ディレクター/プロデューサー/コピーライター。三重県の伊賀市、忍者の里出身。ちなみに、界外(かいげ)は本名です。東京に来て10数年目。いつ来てもワクワクする渋谷の街が好き(いまだに渋谷駅で迷う。方向音痴……)。興味のあるジャンルは料理、酒、発酵、お笑い、短歌、絵本、子育て。シブヤ散歩新聞ではレアキャラ的頻度で執筆予定。
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テキスト/たかなしまき
フリーライター。OL、業界紙記者、海外ガイドブックや美容雑誌の編集者を経て、現職。愛媛県で生まれ育っていた時から都会に憧れていたわたしにとって、渋谷界隈は歩いた分だけ東京のおもしろさに出会える街。現在、神奈川県在住ですが、何かと渋谷や表参道に出没しています。ふらーっと路地に入って探検したり、人間観察したり、気の向くままに歩くのがお気に入り。