シブヤまちづくり散歩とは
未来のシブヤはどんな街? 渋谷区では、様々な社会状況の変化や、技術革新を踏まえた上で、「渋谷区基本構想」をまちづくりの視点から実現化する「渋谷区まちづくりマスタープラン」(以下「渋谷区まちマスプラン」)の策定が進んでいます。2017年9月に始まった「渋谷区まちマスプラン」をはじめ、シブヤで行われる様々なまちづくりの取り組みを追いかけます。
「?」を持って街に出よう
「住んでいる街は好きですか?」 「住んでいる街をもっとよくするために、何が必要だと思いますか?」 そんな風に聞かれたら、あなたならなんと答えますか?
この夏休み、「ソーシャルキッズアクションプロジェクトHarajuku」に参加した11人の小学生が、そんな問いをもって原宿の街に飛び出しました。
ソーシャルキッズアクションプロジェクトとは、子どもたちが、自分が暮らす地域の大人との対話を通して街の課題を見つけ、解決策を提案する、行政×企業×NPOの協業プロジェクト。このプログラムでは、5日間をかけて、街に集まる人々の様子を観察したり、インタビューをしたりしながら最終日には、渋谷区長へのプレゼンテーションを行います。
はじめはやや緊張気味?グループごとに真夏の原宿へ
わたしが伺った2日目は、原宿の街なかにあるお店や公共施設でインタビューを行う日でした。会場に入ると、街へ出る前にインタビューの予行練習をしているところでした。
「ふくらませる質問を工夫しよう。相手によって聞けることも変わってくるよ」と、このプロジェクトの発起人である植野真由子さんが声をかけます。
そしていよいよ街へ。当日は30度を超える猛暑日。水分、塩分補給などの熱中症対策も万全にして出かけます。
はじめに向かったのは郵便局。ややぎこちない表情ながらもしっかり挨拶をしてから、用意していた質問を投げかけます。
「この街を、どんな風にしたいですか?」
応じてくださった郵便局のかたは、やや予想外だったのか、一瞬答えにつまっています。
「どんな風にしたいか・・・うーん難しいなあ」と言いながらも、ひとつひとつ言葉を選びながら答えてくださいます。メモを取る子どもたちも、真剣そのもの。
「緊張したー!」 郵便局を出るなり呟く子どもたち。少しほっとしたような顔をしています。
原宿を愛する人たちに出会う、触れる
次に向かったのは、地域の歯医者さん。挨拶をして、さて質問・・・と思ったところへ、
「みなさんは、何のために調べているの?」と歯医者さんのほうから質問が。
「原宿の街をテーマに、街をどう変えていくかを提案するため、街の人にインタビューをしています」。予想外の展開にも関わらず、しっかりと目的を伝えます。
ここで、ちょっと面白いことが起きました。
子どもたちは事前に、 「街の改善したい部分」や「もっとこうなったらいい、と思う部分」 を聞くための質問をたくさん用意していました。 ところがインタビューを受けてくださった歯医者さんは、 「今のままの原宿で、十分大好きなのよねえ」と、むしろ原宿のいいところをたくさんお話しくださったのです。
流行の最先端にある街であること、安全さや便利さ、ケヤキ並木の美しさ・・・歯医者さんのお話にすっかり引き込まれたのか、子どもたちからも笑みがこぼれます。
「頑張ってね!」と見送ってくださった歯医者さん。
インタビューを終えて外へ出ると、相変わらず照りつけるような日差し。でも子ども達は元気そのもので、昨日が初対面とは思えないほど打ち解けている様子です。
歩いている途中に、こんなものを見つけました。
「これ、マスキングテープ?」 「あ、見たことある!」 マスキングテープでハートをつくる、「オンデンハートストリート」という地域活性化プロジェクトによるものであることを、同行の植野さんが教えてくださいました。
「あ、ここにもハートあった!」 などと、わいわいおしゃべりをしながら次に向かったのは、居酒屋さんです。
大きなブリをお刺身にするところを見せていただきました。(なんと試食も!)
幼い頃から原宿に住み、 「キャットストリートが遊び場だった」 という居酒屋さんは、商店街の会長さんとして、まちづくり活動や美化活動、防災活動に取り組んでいらっしゃいます。
「どんなお客さんが多いですか?」との質問には、 「昼はこの辺に勤めている若いお客さんが多くて、夜は・・・おじさんが多いなあ」。 外国人観光客が多いと思われがちな原宿の、もうひとつの側面を知ることができました。
インタビュー先の最後は原宿警察署です。原宿警察署管内ではたらく、警察官のみなさんにお話いただきました。
「どんな通報が多いですか?」
「場所とか時間帯によって内容は違いますか?」
「みなさんはどんな思いで働いていますか?」
「働いていて、街の変化を感じますか?」
子どもたちから、様々な種類の質問が出てきます。答えていただいたことについて、さらに追加の質問をする姿もみられます。半日を通して、明らかに質問力が上がっているのを感じました。
子どもの「?」を伸ばす、大人の関わり方
約2時間で4ヶ所を回って会場へ戻った子ども達に、インタビュー活動の感想を聞いてみました。
「人によって街に対する気持ちが違うんだなあ、と思いました」
「昔と今との違いを知れてよかったです」
「街のためにやっていることがたくさんありました。」
一人一人、自分なりのポイントで大事なことをつかんだようです。
今回のインタビュー活動で印象的だったのが、サポートしているスタッフの関わり方です。 子どもたちが質問する姿を見ていると、「あれ、それさっきもう聞いたよね?」とか、「その聞き方だと答え出てきにくくないかな?」などと、思わずひとこと添えたくなることも出てくるのですが、その場で周りの大人たちが割って入ることはありませんでした。スタッフが見守りに徹することで、子ども達がまっすぐに問いかけ、大人もまっすぐ答える、真剣なやりとりが生まれているように感じました。
そのことについて、植野さんに伺ってみました。
「サポートに入る大人たちには、答えを与えないでくださいとお願いしています」と植野さん。
「子どもたちに、何がやりたいのかに気づいてほしいんです。気づいて、実現するところまでを伴走するのがこのプロジェクトの目的です。そんな子どもたちの声が、街の大人たちを動かす大きな力になると思っています」
プロジェクトでは、この先、渋谷区長への提案を経て、大人も巻き込んだ形で、実現へ向けての取り組みを進めていくとのこと。子ども達の声から始まる街づくりの、この先が楽しみです。
八田吏(はった・つかさ)
ライター。
NPO法人で、産後の社会問題に関する調査研究に携わる。個人活動として短歌の会を隔月で開催。自宅から一番近い繁華街が渋谷なので、映画に行くのも友達とのお茶も、本や洋服などの買い物も、だいたい渋谷区内で完結しています。