さあ、本書をポケットに外に出てみよう。
そこには人と自然の多様な営みがある。
合理化・機械化・都市化による季節感の喪失が指摘されているが、それでも、確かな季節の移ろいがある
『連句・俳句季語辞典 十七季』という本の端書にあるメッセージです。
年の瀬で忙しない毎日ですが、すこしだけ時間を割いて、近所の公園を歩いてみませんか。今回のシブヤ散歩新聞は、代々木公園で『十七季』の季語を探してみたいと思います。さあ、本をポケットに忍ばせて、歩いてみましょう。
原宿門は黄色い世界
原宿駅から明治神宮を抜けて原宿門へ向かいます。足元を落ち葉が舞っていて、少し風が強い日。マフラーをぐるぐる巻きにした観光客がいろんな言語を口にしながら行き交っていました。
原宿門へ到着すると、そこには大きな銀杏の樹が。下から見上げると、雄々しい枝ぶりが逞しい。昔見た映画『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』(1993年、岩井俊二監督)を思い出して、まるで花火みたいだ、と思いました。
■季語■
【木枯(こがらし)】(初冬)
【銀杏散る】(晩秋)
【銀杏黄葉(いちょうもみじ)】(晩秋)
【花火】(晩夏)
枯れ木にもたわわに実る・・・雀?
代々木公園には常緑樹も多いので、公園全体が紅葉真っ盛り・・・というわけではありません。けれども見渡すと、ところどこに黄色や赤色に染まったエリアを発見することができます。銀杏の葉の黄色い絨毯や、はらはらと落ちる紅葉の赤い葉を楽しむだけでも、秋満喫ですね。
秋っぽい色、に導かれながら歩いていると、なにやらピチピチ騒がしい。音のする方に目を向けると、そこには枯れ木に鈴なりの雀たち。まるで柿の実のようでした。
たしか「雀の子」は春の季語だったよなあ、と思いつつ『十七季』を取り出すと、晩秋の頁に「雀蛤となる(すずめはまぐりとなる)」という季語が。後で調べたところ、冬を迎える前に雀がすっかり姿を消す様子から、この季節になると雀は海に入って蛤になるのだ、という故事があるのだそうです。二十四節気「寒露」の季節の七十二候にも「雀蛤となる」がありました。寒露はとうに過ぎていますが、代々木公園の雀はまだ蛤にはなっていないようですね。
■季語■
【枯木(かれき)】(三冬)
【柿】(晩秋)
【きざらし】(晩秋):枝に残って熟した柿のこと
【雀蛤となる(すずめはまぐりとなる)】(晩秋)
冬に咲く花
公園内のバラ園に差し掛かると、白無垢と紋付袴のカップルが記念写真を撮影している場面に遭遇しました。遠くからパシャリ。まだ薔薇が咲いているなんて季節外れだなあ、と思ったのですが、『十七季』で「三冬」の頁を手繰っていたら、ありました。冬薔薇。ふゆばら、もしくは、ふゆそうび、とも読むそうです。厳しい寒さの中で凛と咲く様子を捉えた言葉なのだそう。
なんだか最近、季節外れのことが起こると「異常気象の影響かしら」と短絡的に考えていたのですが、昔から季節の揺らぎはあるのですね。他にも、初冬の季語には「帰り咲」「返り花」「狂い咲」「二度咲」「忘れ花」と、冬の寒々しい景色にポツリと咲く花を表すものがいくつもありました。季節の「盛り」だけを言葉にするのではなく、季節の「哀れ」も言葉にしてきた先人たちの視点に、じんわり感じ入る発見でした。
■季語■
【冬薔薇(ふゆばら・ふゆそうび)】(三冬)
木々の冬支度
ぐるりと公園内を歩いて、最後に辿り着いたのは西門。広場から緩やかに下る途中、松の幹にぐるぐると巻かれた藁。これはたしか、冬の間に木に寄る虫を集める方法だったなあ・・・と、昨年書いた記事を思い出して通り過ぎようとしたところ、あっ、作業中の方がいる!しかも、何やら色々な冬支度をしている様子・・・いそいそと近づいて行って、お話を伺ってみました。(都の職員さん、突然の声かけに快く対応してくださってありがとうございました!)
西門近くの大きな松に施していた冬支度は、「雪吊り(ゆきつり)」「薦巻き(こもまき)」と呼ばれるもの。雪吊りは、雪の重さから松を守るための傘型の雪除けのこと。薦巻きは、幹に藁を巻くことで、暖かい場所を求めて地中に潜ろうとする虫や幼虫が藁の部分に集まる習性を利用して、啓蟄(二十四節気の第3、3月6日頃)前に藁ごと回収して燃やすのだそうです。作業の手を止めて対応くださった職員さんが「これから掲示しようと思っていた」と見せてくださったラミネート・シートには、これらの木々の冬支度の説明がありました。西門付近に行かれる際は、ぜひ探してみてくださいね。
■季語■
【雪吊(ゆきづり)】(仲冬)
【菰巻(こもまき)・薮巻(やぶまき)】(仲冬)
*『十七季』では「こも」の部分に別字があててあり、意味は「樹木を雪折れから守るため、幹や枝に縄や筵(むしろ)を巻きつけること」となっていました。
身近な季語で拡がる世界
およそ1時間弱の代々木公園滞在でしたが、たくさんの季語を発見することができました。12月7日からは、季節の呼び名は「仲冬」。『十七季』には、自然を受け取る言葉だけでなく、年の瀬の行事や生活、神祇の言葉が多く並びます。例えば「社会鍋」「松迎え」「羽子板市」、「冬至粥」「注連作り」、「神楽」「臘八(ろうはち)」「納め弥撒(ミサ)」など。季語の世界って、自然と人の文化の間にあるものなのですね。
少しずつ寒くなって身体も縮こまる日々ですが、自然の中にある季語と、人の文化にある季語の間を歩いてみることで、目の前の世界がぐんと拡がるように思います。
みなさんも季節の移ろいを感じながら、外を歩いてみませんか。
得原藍(えはら・あい)
理学療法士/一般社団法人 School of Movement ディレクター。ISIS編集学校師範。子育てをしながら運動科学の専門家として、身体と環境と生活の関係を考える日々を送る。
たのしいマイニチのために人生編集中。
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