渋谷レジェンド散歩とは
渋谷の街で、数十年。人々に愛され続けた歴史を誇るお店や会社をご紹介するのが、「渋谷レジェンド散歩」です。渋谷といえば「若者の街」といわれますが、実は、長きにわたって活躍している人や商品、サービスがたくさんあります。そんな渋谷の意外性ある魅力をお届けしていきます。
代官山駅から徒歩5分、旧山手通り沿いにある「ヒルサイドパントリー代官山」は、自家製パンやデリを中心としたお店です。
周囲にはファッションやインテリアのショップ、オープンテラスのあるレストランなどが立ち並び、洗練された雰囲気が漂います。
オープンは1993年。当時は「おしゃれな輸入食材が手に入るお店」として、ファッション雑誌やカルチャー雑誌でもたびたび紹介されていました。わたし自身も、雑誌片手にドキドキしながらおじゃました懐かしい記憶があります。輸入食材がスーパーや通販で手に入るようになった今、あのおしゃれなお店はこの街で、どんな風に根付いているんだろう? そんなことを思いながら、伺いました。
パンも野菜もデリも!地域の食卓を支える「パントリー」として
お店は代官山ヒルサイドテラスの地下一階にあります。明るい日差しが差し込むエントランスにはテーブルが置いてあり、お店で買ったものをいただくことができます。
店内に入るとまず、壁一面のカラフルな食材が目に飛び込んで来ました。「パントリー」とは「食材庫」という意味だそう。「この界隈の食材庫でありたい」という願いから「ヒルサイドパントリー代官山」と名付けられたのだそうです。
「ご近所にお住まいのかたがパンとコーヒーを買いに来られたり、夕方になると夕ご飯用にデリのラザニアやサラダを家族分まとめて買って行かれたりと、生活密着型のお店なんです」とお話くださったのはオーナーの朝倉さん。店内には「自家製パン」「デリ」「輸入食材と野菜」「コーヒーとワイン」の4つのコーナーがあります。食卓に必要なものがなんでも揃うその充実ぶりは、まさに「食材庫」! 眺めているだけでわくわくしてきます。
オープン以来のロングヒットは「天然酵母クロワッサン」
お話を伺っていると、ちょうどバケットが焼き上がりました。
「パチパチ」という小さな音が聞こえてきて、思わず耳を澄ませます。ハード系のパンが焼き上がる時特有の音で、「天使のささやき」とも呼ばれているそうです。聞いているうちになんだかパン自体が愛らしく思えてきます・・・!
パンの一番人気は創業当初からのロングヒット、天然酵母のクロワッサン(上段)。皮のパリパリ感と中のしっとり感のコントラストが魅力です。天然酵母自体がまだ珍しいものだった頃から、同じレシピで作り続けられています。
塩を効かせたタイプのクロワッサン(下段)も。花が咲いたような形から、「ヒルサイドフラワー」という名前で親しまれています。これは、食べ比べてみたくなりますね。
スタンダードなものを大切にする、パンづくりのこだわり
パイ類も充実。幾重にも重なった層の美しさに目を奪われます。
ヒルサイドパントリー代官山のパンは、すべて生地から手作業でつくられているのだそうです。これは創業以来変わらないそう。「材料を計量して、粉からミキサーで回して、というところから、手作業でやっています。今は冷凍生地でもいいものがありますが、このお店では創業当時のレシピを大切にしたいと思っています」(朝倉さん)
パンの種類は、バケットやクロワッサン、食パンなど、スタンダードなものが中心になっています。「いつものパンが、いつもある」ということは、日常的にお店を利用するお客さんにとっては安心です。スタンダードを大切にしていく姿勢に、生活密着型のお店だからこそのこだわりを感じます。
目を惹く新商品や、たくさんの種類のパンがにぎやかにひしめく、といったタイプのお店ではありませんが、ひとつひとつ丁寧に手作りされたシンプルなパンが並ぶ、その端正さに惹かれます。
8/28公開の「渋谷レジェンド散歩No.5 代官山の「ふつうにおいしい」食材庫、ヒルサイドパントリー代官山(後編)」は、お店で大切にしていることや、また、代官山という街でお店を続けることについて、朝倉さんのお話をさらに伺っていきます。
【店舗情報】
ヒルサイドパントリー代官山(株式会社朝倉商会)
東京都渋谷区猿楽町18-12
ヒルサイドテラスG-b1
TEL/03-3496-6620
営業時間/10:00~19:00
定休日/水曜日(祝日の場合は営業)
http://hillsidepantry.jp/
八田吏(はった・つかさ)
ライター。
NPO法人で、産後の社会問題に関する調査研究に携わる。個人活動として短歌の会を隔月で開催。自宅から一番近い繁華街が渋谷なので、映画に行くのも友達とのお茶も、本や洋服などの買い物も、だいたい渋谷区内で完結しています。