Wikipediaによると、カポエィラは
「ブラジルの奴隷達が練習していた格闘技と音楽、ダンスの要素が合わさったブラジルの文化」
確かに、目の前で繰り広げられる光景は、
ずっと踊り続けているようにも見えるけれど、戦っているようにも見え、
戦いのようにも見えるけれど、笑顔でコミュニケーションをとっているようにも見える。
そして、輪になっている人たちは楽器を奏でながら2時間ずっと、歌い続けている。
この一体感、そしてほとばしるエネルギーは一体なに?
今回散歩しに行ったのは、渋谷から国道246号に入るとすぐの、東山社会教育会館(目黒区)で開かれていた、カポエィラの“お祭り”ともいえるRODA(ホーダ、日本語で「輪」の意味)。
間近でホーダを見ているうちに、なぜか私も、熱い気持ちに突き動かされそうになる。
なんでこんなにグッとくるんだろう。
カポエィラについて何も知らないけれど、ただ一つ感じるのは、スポーツとか、格闘技とか、音楽とか、ダンスという言葉ではひとくくりにできない、とても深い“文化”なんだということ。
今回のホーダの主催者、恵比寿・渋谷界隈で活動しているFICA(カポエィラ・アンゴラ)日本支部の風間雄太代表に、カポエィラについて聞いてみました。
社会性の高いお祭り的な存在
(今日のホーダはものすごいエネルギーでしたね。そして、中央の2人がお互いものすごく集中し、相手がどう動いてくるかを見極めながら、それに合わせて動く姿がすごく印象的でした。しかも、すごくワクワクしながらやっているのが伝わってくる。一体感というか、信頼とか、仲間への愛みたいなものを感じました)
風間:ホーダって、単純に言ってしまうと演舞なんですけど、お祭りの要素が強いと思います。ブラジルにいた時に現地で印象的だったのは、みんながとても面白そうに歌っているし、踊っているし、楽器を弾いていたこと。
なんというか、コミュニティの集まりですよね。現地では各グループ週に1回程度ホーダをやっているんですが、自分たちのグループだけじゃなくて、ほかのスタイルの人も参加していい、本当にオープンな集まりなんです。ただ、そこには真剣さがあって、皆がホーダという非日常の儀式を取り行っているんです。
入れ替わりで演舞をしながら、周りの人は演奏し、歌い続ける。終わった後には現状の問題だとか、社会的システムの問題まで深く話したりするんです。
燃やしてまで消そうとした、奴隷という悲しい歴史
(コミュニティの仲間で絆を深めながら、自分たちの社会をどう良くしていくかまで話しあうというのは、すごく社会性の高いものなんですね。なぜ、そういうものが生まれたんでしょう)
風間:カポエィラは、アフリカから奴隷として連行された黒人が生み出したものと言われています。16〜17世紀当時はポルトガルがブラジルを植民地化し、サトウキビなどのプランテーションで労働する人間が必要だったんです。
アフリカから黒人を船に乗せる時、同じ部族がかたまっていると反乱を起こす危険性があるので、あえて別の部族同士で船に乗せ、そのままセンザーラという奴隷小屋に押し込んだ。もう母国には帰れないという環境の中で、奴隷たちがアフリカというアイデンティティーを取り戻すために体で表現していたものが、カポエィラの起源ではないかという節があります。
(節、ということはハッキリわかってないのですか?)
風間:奴隷制度って、ブラジルにとっていい歴史ではないですよね。だから1888年に奴隷制度を廃止した時に、負の歴史を消そうとして政府が文献を燃やしてしまった。だから昔の歴史を知るための資料がほとんど残っていない。それがカポエィラのミステリーな部分です。
「カポエィラは悪いもの」と言われた時代
(燃やしたって、歴史は変えられないのに・・・)
風間:今でこそカポエイラのホーダが無形文化財として登録されましたが、昔は悪い物ものと評価されている時代がありました。下層階級の民衆によってカポエイラが実施されていたのですが、彼等がギャングのような集まりを形成した時代があったんです。
実際、カポエィラをやっていた黒人は強かったので、後のパラグアイ戦争の時に駆り出された時に活躍したんですよ。ところが政府は、活躍した軍人には家や土地を与えると言っていたのに約束を守らなかった。
黒人たちは当然、反発しますよね。不良になる人も出てきます。それで、素行の悪い不良の人たちをひっくるめて「あれがカポエィラ」と言って、カポエィラは悪いもの、ならず者がすること、とみなされた時代もありました。
さらに歴史が進むと、1900年代に入って、メストレ・ビンバ(ビンバ師匠)という先生が、中流階級向けに、カポエイラの土着的な要素を取り除き、スポーツや格闘技の要素を取り込んだカポエィラのスタイルを作ったんです。それでだんだんと白人にも浸透していく一方で、伝統的なカポエィラを引き継いでいる人たちも対抗して流派を編成した。それが私たちがやっている流派「カポエィラ・アンゴラ」です。
師匠からもらったTシャツが、生徒の証
(風間さんとカポエィラの出会いについて教えてください)
風間:大学生の時に友達に誘われたのが最初です。そんなに真剣にやってたわけじゃなくて、ほかにやることないし、みたいな。大学を卒業した後は、ニュージーランドに語学留学しました。
最初は英語が話せなかったんですが、カポエィラのグループに入ってみたら、カポエィラを通してすぐに友達になれたんです。会話じゃなくて体でコミュニケーションできて、まさに非言語コミュニケーションを体感した瞬間です。それでハマりはじめて、帰国した後にブラジルに渡りました。
(カポエィラのためにブラジルってすごいですね)
風間:実は南米をバックパッカーで周りたいと思って行ったんですけど、ペルーやボリビアの後にブラジルに行ったら、そこで止まってしまったというか(笑)。そこから進めなくなってしまったんです。
(それほど現地のカポエィラはすごかった)
風間:もう、みんながすごい真剣にやるんですよ。カポエィラが自分のアイデンティティというか、カポエィラを通して人生哲学を話したりとか、みんなで集まって、どうすれば社会システムがよくできるか、という話までする。そういうのをみていたら、俺はなんでこんなに軽い気持ちでやっているんだろうって思って。
その時、いまの師匠に会ったんですけど、全然話もしてくれませんでした。日本の師弟関係じゃないですけど「俺の背中を見て学べ」みたいな。厳しかったですけど、生徒として認められるまで1年半毎日、朝昼晩と練習し続けました。そして帰国の数ヶ月前にやっともらったんです。
(もらった?)
風間:Tシャツです。先生の名前と、チームのマークが入っているTシャツ。それを持っていない人は、ファミリーとして認めてもらえない。日本に帰る前に、それをやっともらえたんです。
絶対に曲げたくない、カポエィラに対する敬意
(そしていま、日本支部の代表としてカポエィラを広めているわけですが、なぜ、NPO法人なんですか?)
風間:難しいんですけど、どうすれば自分たちがその文化に対して貢献できるかって考えたところ、NPO法人という形だったんですよね。営利目的というか、職業的な団体になってしまうと、守れなくなるものが出てくると思ったんです。
というのも、カポエィラ・アンゴラには、練習中はTシャツをズボンの中に入れなくちゃいけない、タンクトップはダメ、靴は必ず履かなくちゃいけない、裸足はダメ、というルールがあります。
カポエィラは、野蛮だと言われてきた時期があるので、カポエィラ・アンゴラが組織として認められた時に、「野蛮じゃない、ユニフォームもちゃんと着るし、靴もちゃんと履けるんだ」ということをしっかり示そうとしてきた歴史、伝統があるんです。
それが、もし新しい人が来て「靴もないし、タンクトップだけどいいですか?」と言われた時、営利目的だったら認めちゃうかもしれない。でもやっぱりそこは、たとえ師匠が見ていなかったとしても絶対に曲げられないところなんですよ。それが、カポエィラに対する敬意です。ちょっとストイックかもしれないですけど。
踊り、楽器、歌はもちろん、“話せる人”になってほしい
(カポエィラを通して伝えたいことってなんですか)
風間:すごく時間がかかるし、プロセスが必要なことなんですけど、楽しみながら伝統を知ったりとか、儀礼とか音楽とか、そういうのを含めて人間的に成長できるツールになってほしいですね。
あと、私たちのグループで最近目標としているのが、カポエィラをする人、カポエリスタとして、話せる人になってほしいということです。カポエィラって、踊れるだけじゃなくて楽器も弾けなくちゃいけない、そしてポルトガル語で歌も歌えないといけないんですけど、次のステップとして、話せる人、ちゃんと意見を発表できる人になってほしい。
カポエィラだけやってるのって、人生じゃないですよね。ほかのことにもカポエイラを活かしたりとかできないと意味がない、という考えが師匠たちからあって。それに、話せないとカポエィラの良さも伝えられないですよね。
(ネットで調べた感じ、カポエィラって渋谷周辺に多くないですか?)
風間:渋谷はダンススタジオやレンタルスタジオ、そして区の施設でも楽器と動きが可能なところが多いからなのか、わりといろいろなカポエィラの団体が集中しています。
私たちも今は施設を借りてやっていますが、いつかは拠点を持って、現地でアカデミアと呼んでいる学校と同じようにコミュニティに属しながら学んでいくスタイルで、カポエィラを伝えていきたいですね。
【プロフィール】
風間雄太
FICA(カポエィラ・アンゴラ)日本支部代表/コントラ・メストレ(准師範)
FICA https://www.fica-jp.com/
活動場所は、恵比寿社会教育会館(渋谷区恵比寿2-27-18)、東山社会教育会館(目黒区東山3-24-2)
主に水曜、土曜の午後7時から午後9時に練習、またはホーダを開催
平地紘子(ひらち・ひろこ)
フリーライター/ヨガインストラクター。10年以上お堅い新聞記者だったのに、3年間のアメリカ生活でヨガインストラクターに転身。でもやっぱり、書くのも好き。かなり色黒なので「サーファー?」と聞かれるけれど、見かけ倒し。スッピンのまま自転車で中目黒界隈を駆け抜けているだけです。ヨガウェアで魅せる筋肉美が最近のプチ自慢。フィットネスやマッサージなど、体にいい情報をお伝えします!
yoga teacher HiRoko HiRachi