渋谷駅からほど近い宇田川町に、「カフエ マメヒコ」という不思議なインターネットラジオ局があるという。それはカフェでもあり、劇場でもあり、映画も創り、しかもテレビ番組まで制作するつもりだという。
え?! カフェなのにラジオ? 映画? 演劇? テレビ? いったいどういうこと? 頭の中にいろんな? がつきすぎてもうよく分からなくなってきました。
「カフエ マメヒコ」のホームページを覗くと、インターネットラジオの番組がいくつかあり、店主の井川啓央さんがパーソナリティを務めそれぞれの番組ごとに共演者を変えているようです。そのうち今回公開収録を行うラジオ番組のタイトルは「テレビさん、お元気ですか’17」。
店主の井川啓央さんは、1973年生まれで、1970年生まれの僕と同じテレビっ子世代。僕らはみんな幼い頃からテレビを見て育ち、テレビに憧れて大人になった世代です。井川さんは夢を叶えてテレビ制作会社に入り、その後フリーのテレビディレクターとして活躍していましたが、12年前に突如テレビディレクターを辞めてカフェ店主となり、現在都内に3店舗を構える人気店に成長しました。
そして井川さんとラジオ番組で共演するのは、フリーのバラエティプロデューサー、角田陽一郎さん。角田さんも井川さんと同世代で僕と同い年のテレビっ子世代です。去年までTBSに在籍し「さんまのSUPERからくりTV」「中居正広の金曜日のスマたちへ」など数々のヒット番組を手がけ、現在はベストセラー本を出版するなど多方面で活躍している方です。
そんなテレビ業界の表も裏も知り尽くした上で違うフィールドに飛び出した二人が、現在のテレビについてもの申すという番組なのだから、おもしろくないわけがありません。
この番組について、「カフエ マメヒコ」のホームページには以下のような解説が載っていました。(一部抜粋)
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広告では物が売れない時代に、テレビに多額の広告費を払い続ける会社が、これからどれだけあるでしょうか。
広告費で番組を制作している民放各局は、これからどうなるのでしょうか。
その広告費に群がっていた芸能人や、スタッフはこれからどうするのでしょうか。
時代が変わってるなかで、ボクらが好きだったテレビがどうなるのか。
そういうことを角田さんや参加者のみなさんと話してみたいと、これを企画しました。
カフエ マメヒコ 井川啓央
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なるほどー。
テレビっ子世代であり、広告業界に長くいた僕にとってこれは必聴の価値あり、ということで8月30日に行われた初の公開収録におじゃましました。
謎のラジオ局はおしゃれなカフェにあった!
公開収録が行われたのはカフエ マメヒコ宇田川町店。
店に入ると、自家製のこだわりのパンやジャムが並んでいます。
内装は道具や照明、机や椅子までおしゃれで、こだわりが感じられます。
そして公開収録の開始時間になりました。カフェの奥に設けられたステージにおもむろに登場した井川さんと角田さん。
ラジオの公開収録とはいっても、とてもアットホームな雰囲気で、お客さんはコーヒーを飲みながら聞いています。二人とも良い意味で肩の力が抜けたゆるい感じでスタートしました。
4週分、約2時間の収録でしたが、テレビ業界での裏話、その後の苦労話などなど、お二人のトークがおもしろすぎて、あっという間の2時間でした。本当は全てお伝えしたいところですが、情報量があまりにも多いのと、ここではとても書けないようなきわどい話が満載なので、その一部をかいつまんでご紹介します。
●出演者プロフィール
角田陽一郎(かくた よういちろう)
バラエティプロデューサー/Variety Producer
著書『「好きなことだけやって生きていく」という提案』『最速で身につく世界史』『成功の神はネガティブな狩人に降臨する-バラエティ的企画術』『究極の人間関係分析学カテゴライズド』『オトナの!格言』。映画「げんげ」監督。水道橋博士のメルマ旬報とBAUSで連載中!渋谷のラジオ金曜朝10時[渋谷で角田陽一郎と]。MX「オトナに!」。占いTV。
井川啓央(いかわ よしひろ)
株式会社 セレンディピティ代表取締役/カフエ マメヒコ 店主
1973年生まれ。テレビディレクター、番組制作会社代表を経て、2005年、東京・三軒茶屋に「カフエ マメヒコ」を開業。その後、渋谷に宇田川町店、公園通り店を開店。また2010年に北海道に豆農園「ハタケマメヒコ」を開園。マメヒコで使う大豆や小豆を栽培している。2015年、新業態のテイクアウト店舗、マメヒコ コーヴァイヴ開店。宇田川町店には劇場を持ち、カフエ マメヒコ制作の演劇や映画を上演、上映している。
番組の代わりに「カフエ マメヒコ」を始め、再び番組を作る理由
【角田さん】
井川さんは、テレビ番組制作の代わりに「カフエ マメヒコ」を始めたんですよね。でもまたテレビをやりたい理由はなんですか?その辺の経緯を聞かせてください。
【井川さん】
「カフエ マメヒコ」はもう飽きちゃったんですよね(笑)。12年間で映画と演劇を7〜8回やったし、週5日ラジオをやってるし、畑も作ったのでやれることはやり尽くしたから、もう一回テレビ番組を作りたいと思って。
そもそもなぜ「カフエ マメヒコ」を作ったのかというと、テレビ番組の制作会社にいたときは、明けても暮れても企画書けって言われるんだけど、これ以上ないっていうくらいおもしろい企画書出してもまず通らないわけ。でも他の人の「それで通るのかよ」っていうつまらない企画が採用されることが多かった。
自分としてはもっと肌触りの感じられるもの、行間で感じさせるようなものをやりたかったんですよ。でもフリーのディレクターっていうのは、自分が作りたいものが作れる環境とはほど遠いし、番組コンテンツを制作して納品して終わり。誰かがその番組を見て喜んでいるかどうかが分からないから、とにかく人が喜ぶようなことをやりたいと思ったんですよ。
そんなときに「カフェをやりたい」という女の子と出会って、じゃあカフェというのを企画書として考えてみよう、と思ったのがきっかけ。
たとえばこの大きなテーブルはブビンガっていう豆の木の一枚板だけど、この年輪一つが1年だから、みんな自分の寿命よりも長い木でお茶飲んだりしてると、人の1年って何だろうとか、このテーブルを見ながら考えられるじゃない。そういうことをやりたいって思ったの。
これは「カフエ マメヒコ」という、自分がスポンサーの、自分がやりたいことができる初めてのテレビ番組だ!と思って、うきうきして作っちゃった。
目指したのは「徹子の部屋」のようなカフェ
【井川さん】
だけど400万円のテーブル買ったり、北海道で畑やったりして儲からないことばかりしてるので銀行からは「もっと明るい経営をしろ」、つまり利益を考えろと言われるんだけど、マメヒコってそんなものじゃなくて、なんとか長くやりましょう、って思ってやってて。「徹子の部屋」の企画書みたいな感じかな。何十年も長く続いている番組だけど、たぶん企画書には「黒柳徹子がゲストとしゃべる」くらいのことしか書いてないと思うんですよ。
だけど(放送局の)視聴率を見る人は、たまに大物ゲスト呼ばないといけないとか、途中で黒柳徹子に頭からアメ出させるとか、年に1回の恒例じゃんけん大会やらせるとか、そういうことで何とか番組を化けさせないと、バズらないってやってるわけでしょ。でも鳴り物入りでそんな事やってる番組なんて、1年くらいですぐやめちゃうじゃない。そんなことしてない「徹子の部屋」は何十年も続いてる。オレがやりたいのは「徹子の部屋」なわけ。
だからあんまりガチャガチャ動かさないで、こういう居心地の良い場所を作ったら、そこに人が来て、たとえばここで出会って結婚しましたとか、このブビンガのテーブルで書いたラブレターの筆圧が強くて机に残った「好き」っていう字の跡が、おばあさんになったときにおじいさんと来て咳き込みながら「ほらこれがあのときの・・・」ってなるかもしれないじゃない?
そういうことをやりたいんだよ。でもそれって「明るい経営」でもないし、銀行には受け入れてもらえない。そういうのが、テレビ局から言われてたことと重なったわけ。
テレビの現在・過去・未来
【井川さん】
僕らがちっちゃかった頃には、とにかくテレビは「ザ・ベストテン」とか「8時だョ!全員集合」とか、ほんとにみんな見てたし、凄かったよ。「ザ・ベストテン」なんか生放送で、松田聖子が飛行機で空港に着陸して、タラップが開いた瞬間に「♪あー私の恋は〜」って歌い出すっていうのをやってて。あれって、ものすごい段取りじゃない。
【角田さん】
実はあのとき予定より飛行機が早く着いちゃったんで、プロデューサーが管制塔に電話して「飛行機まだ降ろさないで」って上空で待機させてたんですって。あと新幹線止めたりとか、今じゃ絶対できないけどそんなことよくやってましたよね。でもそういうおもしろいことがどんどんできなくなってきて。
【井川さん】
だからテレビ局に頭のいい人が集まってきてるから、ろくな事がない。ここのコーナーの視聴率が悪いからいいのにすげ替えるってなったらだよ、そんなんでおもしろいかな?って思うわけ。人っていうのは余白でものを考えるわけでしょ。その余白を埋めちゃうってことだよね。全部をおもしろくするって。部分最適化の集合が、全て最適になるとは限らないじゃない?
だってさ、フルコース食べるのに最初からステーキが出てくるみたいなもんだよ。でも、頭のいい人たちの考えてることってそういうことじゃない。
【角田さん】
そうそう。前に担当してた「さんまのSUPERからくりTV」で「ご長寿早押しクイズ」っていうのがあったんだけど、「野球は何人でやるでしょうか?」という問題で、「6億人。」って答えたおばあちゃんがいたんですよ。
そこで、(クイズ司会の)鈴木史朗さんが「え?何ですか?」って聞くともう一回「6億人!」っていうのを5回繰り返しておもしろいっていうときがあるじゃないですか。そのときに、だめなディレクターは最初の「6億人」の時におもしろさを強調して「6億人」の文字を大きくスーパー(画面上の文字)で出しちゃうんですよ。でもそうするとね、見るとおもしろくない。
だから、3回目くらいの「6億人」がおもしろくなるように、1回目と2回目のスーパーはちょっと小さく入れたりとか。全部をおもしろくすると、できあがってみると全然おもしろくなくなっちゃうんですよね。でも今のテレビってそうなっちゃってますよね。
【井川さん】
テレビっていうのは、まず賢い人がスタッフになっちゃったこと、それと制作費がかかりすぎるようになっちゃったこと、そしてそれを全部スポンサーの広告料だけでまかなわなきゃならないようになっちゃった、ということが原因で元気なくなっちゃったんじゃないかと思うわけ。
でも本当はテレビっていうのは、見た人からお金をもらうという構造になってれば、全然違ったと思うんだよね。つまり僕は広告の終焉なんじゃないかって思ってるわけ。テレビが終わってるってよりは、広告が終わってる。テレビってのは全然終わってないと思ってる。
今後は、まず一つは広告収入に依存しない形を考えること。それと、制作費は無駄に使ってるから、固定費みたいなものをもう少し下げて、そんなにハイビジョンである必要ないし、もう少しダサくてもいいから、おもしろいことをやる若いスタッフをもっと使ってやれば、テレビはもっと元気になると思う。
・・・まだまだお二人の熱いテレビ談義は続きます。
他にも、ここではとても書けないようなきわどいテレビ業界の裏話もたくさん聞けるので、ぜひインターネットラジオを聞いてみて下さい。
「テレビさん、お元気ですか’17」URL
おわりに:カフエ マメヒコの謎とは・・・
最後に・・・
カフェなのになぜラジオや映画や演劇をやっていたのか、最初は不思議でなかなか理解できませんでしたが、お話をうかがってその理由が分かった気がします。
それは、「カフェなのにいろいろなことをやる」のではなく、すべては「井川さんがやりたかった番組を、違う表現方法で行っている」ということなのだと思います。その一つの手法がたまたまカフェだったということ、そして、今度はしばらく離れていたテレビというメディアで今度こそ自分がやりたい番組を作りたい、ということなんだと思います。
果たしてこの二人の話がどんな方向に向かっていくのか、そして本当に井川さんや角田さんの目指すテレビ番組が実現できるのか、気になってしかたがありません。今後もこのラジオを毎週聴いて確かめてみたいと思います。
また、今後も公開収録が行われる予定です。お二人のお話を生で聴きたい方、お二人に直接会ってみたい方は、随時ホームページに情報がアップされますのでご確認下さい。
カフエ マメヒコホームページ URL
http://mamehico.com/
【「カフエ マメヒコ」各店の情報】
三軒茶屋店
東京都世田谷区太子堂4-20-4
TEL/03-5433-0545
営業時間/8:00~23:00
定休日/火曜
宇田川町店
東京都渋谷区宇田川町37-11
TEL/03-6427-0745
営業時間/12:00~22:00
定休日/火曜
公園通り店
東京都渋谷区 神南1−20−11 造園会館2階
TEL/03-6455-1475
営業時間/9:00~22:00
定休日/火曜
山本泰宏(やまもと・やすひろ)
フリーライター/PRコンサルタント。これまで24年間テレビCMと消費者マインドを研究し、現在は1000社以上の商品やサービスをテレビ番組で紹介させるPR集団に所属。イベントやファッションなど、テレビ・広告業界が注目する“見てすぐ行って楽しめる”渋谷の最新トレンド情報をお届けします!