IMG_20170914_141736

CULTURE

渋谷歴史散歩No.9 「原宿発祥の地」と妙円寺

原宿というと、ファッションを中心とした若者の街、なにか現代的な街をイメージしますが、その発祥の地がお寺にあるということで、訪ねてみることに。

IMG_20170914_145015

▲さまざまなショップが並ぶ通りを抜けて閑静な住宅街に入ると、妙円寺という日蓮宗のお寺があります(東京都渋谷区神宮前3丁目8−9)。

原宿町の有志が建造した記念碑があるお寺、妙円寺

ご住職にお話をうかがうことができましたので、それを踏まえて「原宿発祥の地」をご紹介したいと思います。

IMG_20170914_141725

▲山門を入ってすぐ右手に「原宿発祥之地」と刻まれた石碑があります。

かつて、原宿駅から青山通りまでの一帯に原宿町がありました。ところが昭和40年(1965)の地番改正により原宿という町名がなくなってしまいました。それを惜しんで何か名前を残すものをということでこの石碑を建造することになり、その場所はもと原宿町のどこかということで妙円寺が選ばれたとのこと。

つまり、妙円寺自体になにか「原宿」の起原となるものがあったわけではないようです。

IMG_20170914_144808

▲石碑の前面左下には「渋谷区長 天野房三」という署名があり、区の公認というかたちになっていますが、町の有志の方々により建てられたものだそうです。

IMG_20170914_143615

▲この石碑が建造されたのは、昭和62年(1987)5月になります。

そもそも「原宿」という地名の由来は、『新編武蔵風土記稿』の「原宿村」の項などによりますと、鎌倉から奥州へとつながる鎌倉街道があり宿駅が設置されたため。そうした道すじにあたることから、奥州征伐のさいに源義家や源頼朝がこのあたりを通ったという伝説も。

IMG_20170914_141848

▲ところで、石碑の左手に何やら手を合わせた仏像があるのが目に留まりました。

IMG_20170914_142720

▲これは浄行菩薩像です。なんでも、第2次世界大戦の空襲でこのあたりも焼け出されたのですが、その際この仏像とそのお堂だけが焼け残っていたといいます。戦火をくぐり抜けた貴重な仏さまですので、参拝の際には、この像の前で合掌を。

妙円寺にある有名なお墓

さて、ご住職が当寺にある有名なお墓をいろいろと案内して、丁寧に説明してくださいました。

IMG_20170427_155903

▲まずは、「坂下家寄子」の墓。

下の方がひび割れてしまっていますが、ここにある「寄子」とは、銭湯の従業員のことです。銭湯で働く者には、客の依頼で背中を流したり、風呂場の掃除に従事し、いわゆる「三助(さんすけ)」と呼ばれた人たちがいました。地方から出稼ぎに来ており、身寄りのない者が多かったようです。そのため口入れ業、今でいう人材派遣サービスをなりわいにしていた坂下家が、城西地区の銭湯従業員のために建てた、いわば共同墓地がこのお墓というわけです。

IMG_20170427_155918

▲側面に刻まれた文字によると、どうやら墓石は明治43年(1910)5月2日に建立されたもよう。

昨今は従業員を使い捨てにするブラック企業の存在が社会問題になっていますが、このようなお墓が、人と人の関係が希薄なイメージのある都会に明治時代から存在したという事実には、何やら心温まるものを感じます。

IMG_20170427_155950

▲次に「薬罐平五郎」のお墓。

平五郎は幕末の侠客として有名で、山手五番組火消頭取をつとめた鳶職人です。没年は嘉永2年(1849)。念のために言っておきますと、「薬罐(やかん)」はアダ名で名字ではありません。

IMG_20170427_160217

▲最後に、加藤大治郎氏のお墓を紹介していただきました。

加藤大治郎氏は、日本を代表するバイクレースのライダーとして御活躍なされました。しかし、残念ながら平成15年(2003)の鈴鹿サーキットにおける日本グランプリのレース中に事故に遭い、帰らぬ人となってしまいました。

今でも多くの熱烈なファンがおり、このお墓が1番参詣者が多いとのことです。

IMG_20170427_160234

▲右側にはファンレターを投函するためのポストも。

IMG_20170427_154503

今ではJR山手線の原宿駅をのぞけば、「原宿」という地名は地図の上から姿を消してしまいました。しかし、妙円寺に行けば、かつて原宿町で生活していた方々の思いがこもった「原宿発祥の地」の石碑があります。皆さんも、ぜひ「原宿発祥の地」を訪れてみてください。

また下記は、妙円寺のご住職の書かれているブログになります。こちらもぜひご覧ください。

妙円寺法話ブログ 「伝えたい仏教名句・名言」
http://ameblo.jp/myouenjiblog/

【余談】

妙円寺の門前には、渋谷区教育委員会による「穏原小学校旧跡」の説明板があります。

IMG_20170914_141918

▲かつて、このあたりに穏原小学校がありました。明治14年(1881)に隠田村と原宿村の連合小学校として両村の名前から1字ずつとり開校。最初の生徒数はわずか24名、その後生徒数が増えて校舎の新築、移転などもありましたが、昭和20年(1945)5月の空襲によって校舎が焼失してしまい、残念なことに翌昭和21年(1946)3月に65年の歴史に幕を下ろすことになりました。しかしながら、その建学精神は卒業生たちに受け継がれているようです。

 

【参考文献】
『渋谷区の歴史』(東京ふる里文庫11、名著出版、1978)
『渋谷区史跡散歩』(東京史跡ガイド、学生社、1992)

【参照URL】
妙円寺公式サイト
http://myouenji-harajuku.com/

 

イト・タクヤ

フリーライター。歴史、神社・仏閣めぐりが好き。基本は部屋に引きこもり、たまに渋谷区内を徘徊。「普段は渋谷の街を歩くことのないシブヤ初心者」として、常にフレッシュな視点からの執筆を心掛けている。というか、事実そうなので、そういう文章しか書けないというのがホンネ。シブヤ散歩新聞では、シブヤ坂散歩をはじめ、渋谷の街の歴史や文化等にまつわる記事を担当している。

ピックアップ記事

  1. SHIBUYA×CLOTHING No.4 10人のうち1人が好きになってくれれ…
  2. SHIBUYA×CLOTHING No.3 フィリピン出身のデザイナーがつくる個…
  3. SHIBUYA×CLOTHING No.1 洗練されているのに洗える!トップス …
  4. SHIBUYA×CLOTHING MOVIE No.6 コンセプトは、「友達に着…
  5. 10/9(月)は散歩の日!シブヤ散歩フェス2017@渋谷ヒカリエ

関連記事

  1. ㉂宮益坂上の歩道橋

    CULTURE

    渋谷坂散歩 No.5 宮益坂1 かつては富士山が、いまは警察署が見える坂

    渋谷ヒカリエを出て渋谷駅から青山通り(国道246号)へと抜けると、そこ…

  2. i_IMG_2808

    CULTURE

    渋谷さかいめ散歩 No.1 渋谷区と目黒区の境目を歩いてみた

    みなさまこんにちは! シブヤ散歩新聞・編集長の界外(かいげ)です。…

  3. 34605194_1981697748571778_348692593577558016_n

    CULTURE

    渋谷イベント散歩No.12 子育てしながら「暮らすとはたらく」を考えるワークショップ@渋谷開催!

    「私」×「子育て」×「はたらく」をテーマにしたワークショップが6月19…

  4. UNADJUSTEDNONRAW_thumb_b06a

    CULTURE

    渋谷朝な朝な散歩 No.2 秋の風を感じる散歩、100kcalの爽快感

    朝の代々木公園。到着すると空にはぽっかりと朝の月が浮かんでいました。…

  5. IMG_4790

    CULTURE

    シブヤ忍者散歩No.1 忍びの姿で、原宿の忍者スポットをめぐるの巻<前編>

    はじまりは、界外編集長からのメッセージでした。「あのさ、次のシ…

  6. IMG_5952

    CULTURE

    シブヤまちづくり散歩 No.9まちづくりマスタープランの意見交換会に参加しました

    シブヤまちづくり散歩とは未来のシブヤはどんな街? 渋谷区では、様々…

  1. IMG_1749

    FAMILY

    渋谷子育てママ散歩No.19 夏休みラストDAYは、”あられ屋さん”の和なかき氷…
  2. IMG_2931

    CULTURE

    渋谷バレーボール散歩 V1リーグに新規参入!「東京グレートベアーズ」
  3. IMG_6323

    FAMILY

    渋谷子育てママ散歩No.1 代々木上原にあるママのわがままを叶えるグルテンフリー…
  4. UNADJUSTEDNONRAW_thumb_b06a

    CULTURE

    渋谷朝な朝な散歩 No.2 秋の風を感じる散歩、100kcalの爽快感
  5. bombay_オクラブルーベリー1

    GOURMET

    渋谷お土産散歩 No.3 ジャムの風味が温かい「OKURA焼き・ブルーベリー」(…
PAGE TOP