#さくら横ちょう(アイキャッチ)

CULTURE

渋谷坂散歩 No. 10 「桜横町」と「さくら横ちょう」

桜の花もすっかり散ってしまい、お花見の季節も終わってしまいましたが、渋谷にはかつて「桜横町」とか「桜通り」と呼ばれた道があるとのことで、散歩してみました。

加藤周一の詩に詠まれた渋谷の下町、いまは学生たちの通学路

前回紹介した「八幡坂」を上って行き、金王八幡宮の大鳥居前のT字路の少し上の右手に入る道で、この八幡通りから常磐松小学校正門へ通じる道をむかし「桜横町」と呼んでいたそうです。

桜横町①

通りに入ると、学生たちの姿がチラホラと見受けられます。

桜横町②

通りに入って歩いて行くと、左になにやらモニュメントがあります。

桜横町③さくら横ちょう歌詞

この歌碑には「さくら横ちょう」と題された加藤周一の詩が刻まれています。

春の宵 さくらが咲くと

花ばかり さくら横ちょう

想出す 恋の昨日

君はもうここにいないと

ああ いつも 花の女王

ほほえんだ夢のふるさと

春の宵 さくらが咲くと

花ばかり さくら横ちょう

桜横町④常磐松小学校校名プレート

加藤周一(かとう しゅういち)は、当時の東京市渋谷区金王町出身の文筆家で、この通りの先にある常磐松小学校の卒業生です。福永武彦、中村真一郎と親しく、共著である『一九四六 文学的考察』が文壇デビューのきっかけとなりました。

「さくら横ちょう」は、加藤周一が創作した新定型詩のひとつで、彼が実際に暮らしていたこの界隈を詠んだもの。のちに中田喜直と別宮貞雄が曲を付けたことで有名となりました。

桜横町⑤さくら横町QR

モニュメントのわきにQRコードが張り出されておりますので、興味がある方は、こちらでもお調べください。

桜横町⑪さかみち

さて、この通りを進んでいくと、中ほどがゆるやかな坂道になっています。

桜横町⑥

坂下からパシャ!

桜横町⑦

勾配はこんな感じです↑。

桜横町⑧常磐松小学校

さらに進んでいくと、終着点の常磐松小学校があります。前述したように加藤周一が通っていた学校です。加藤周一は、その自伝的回想録である『羊の歌』で次のように記しています。(以下、『羊の歌―わが回想―』岩波新書、p.57~58より引用)

八幡宮から学校までの道には、両側に桜が植えられていた。その桜は、老木で、春には素晴しい花をつけた。桜横町とよばれたその道には、住宅の間にまじって、いくつかの商店もあり、そこで子供たちは、鉛筆や雑記帳を買い、学校の早く終った時には、戯れながら暇をつぶしていた。からたちの空地のように町から離れてもいず、八幡宮の境内のように男の子だけの遊び場でもなく、桜横町には、男の子も、女の子も、文房具屋のおかみさんも、自転車で通るそば屋の小僧も、郵便配達もいたのである。学校に近かったから、道玄坂などとはちがって、半ば校庭の延長のようでもあり、しかし校庭とはちがって、町の生活ともつながっていた。私は二つの世界が交り、子供と大人が同居し、未知なるものが身近かなるものに適度の刺戟をあたえるその桜横町のひとときを好んでいた。

道の両側にあった桜は、幕末の頃このあたりに薩摩藩島津侯の屋敷があり、そこへの通り道だったため植えられたのではないかとも言われています。いずれにせよ、この桜の木々は、戦災により焼失してしまいました。

桜横町⑩

しかし、渋谷駅から国学院大学への通学路にあたるためでしょう、現在、多くの学生がこの通りを行き交います。かつて「桜横町」を美しく彩った桜並木を見ることはできませんが、みごと「サクラサク」こととなった学生さんたちの姿を、毎年、春になれば見ることができるのです。

【余談】
本稿で紹介した歌碑の写真撮影を最初にしたのは、実はだいぶ前のことなのですが、そのとき、ちょっとした思い出があります。近隣住民の方にお声がけいただいたのです。

「写真、一緒に(映るように)とろうか?」

「いえ、大丈夫です。わざわざ、ありがとうございます!」

謝辞を述べると、その方は笑顔で去って行かれましたが、新鮮な驚きに見舞われました。おそらくは観光客、もしくは学生と思われたのでしょうが、それにしてもシブヤの各地で写真撮影をしていて、こういったお声がけを頂いたのは、そのときが初めてでした。引用した『羊の歌』の文章から感じた下町情緒は、今でもこの界隈に残っている。そう感じました。

 

【参考文献】
『新 渋谷の文学』(渋谷区教育委員会、2005)
『渋谷の文学』(渋谷区教育委員会、1978)

 

イト・タクヤ

フリーライター。歴史、神社・仏閣めぐりが好き。基本は部屋に引きこもり、たまに渋谷区内を徘徊。「普段は渋谷の街を歩くことのないシブヤ初心者」として、常にフレッシュな視点からの執筆を心掛けている。というか、事実そうなので、そういう文章しか書けないというのがホンネ。シブヤ散歩新聞では、シブヤ坂散歩をはじめ、渋谷の街の歴史や文化等にまつわる記事を担当している。

 

ピックアップ記事

  1. SHIBUYA×CLOTHING MOVIE No.2 元SEの女性がつくった、…
  2. SHIBUYA×CLOTHING MOVIE No.4 10人のうち1人が好きに…
  3. SHIBUYA×CLOTHING MOVIE No.1 洗練されているのに洗える…
  4. SHIBUYA×CLOTHING No.6 コンセプトは、「友達に着てほしい服」…
  5. SHIBUYA×CLOTHING MOVIE No.3 フィリピン出身のデザイナ…

関連記事

  1. IMG_1405

    CULTURE

    渋谷ワイン散歩No.1 渋谷生まれの社長が推す ストーリーのあるスペインワイン

    真っ赤な太陽、闘牛にフラメンコ。情熱の国スペインでつくられたワインの一…

  2. アイキャッチ(南郭坂)

    CULTURE

    渋谷坂散歩No.11 南郭坂

    江戸時代の有名な学者の名前に由来する坂が渋谷にあるとのことで、今回は東…

  3. Main

    CULTURE

    渋谷FIT散歩 No.2 突然の閉鎖にショック…穴場だったボルダリングスポット

    「本当は教えたくない!穴場なボルダリングスポット」として、ここで紹介し…

  4. fullsizeoutput_8dd0

    CULTURE

    渋谷子育てママ散歩No.6 親も子も「最高に気持ちイイ!」渋谷の宇宙空間 〜コスモプラネタリウム…

    「ねえ、プラネタリウム行ってみたい?」夏休みのある日のこと。…

  5. IMG_4073

    CULTURE

    渋谷オトナ女子散歩No.7 暖を求めて三千里

    こんにちは、たかなしです。先週の1月9日(水)に、界外編集長と…

  6. IMG_20170914_141736

    CULTURE

    渋谷歴史散歩No.9 「原宿発祥の地」と妙円寺

    原宿というと、ファッションを中心とした若者の街、なにか現代的な街をイメ…

  1. IMG_20171027_130957

    CULTURE

    渋谷坂散歩No.13 勢揃坂
  2. 17792585_1422810171118527_1363027286_n

    CULTURE

    4月8日は「小ネタの日」。渋谷のラジオ「小ネタの日」特番に出演します
  3. S__721020

    BEAUTY

    渋谷ライブハウス散歩Vol.2 アフターコロナの新しい文化を渋谷から SHIBU…
  4. IMG_2442

    HEALTH

    渋谷年越し散歩No.1 大晦日から元旦にかけて70km歩いてみた。
  5. IMG_4790

    CULTURE

    シブヤ忍者散歩No.1 忍びの姿で、原宿の忍者スポットをめぐるの巻<前編>
PAGE TOP