夏のごちそうといえばなんといっても「鰻」。暑い季節だからこそ、おいしい鰻でしっかり栄養をとりたいですよね。渋谷の鰻といえばすぐ思い出すのが、スクランブル交差点のすぐそばにある「渋谷松川本店」さん。久々の日差しが眩しい7月のある日、老舗の鰻を求め、ふらりと散歩に出かけました。
「敷居が高くない」老舗の魅力
実はわたし、以前から松川さんの鰻が大好きなんです。ちょっとおいしいものでも食べて贅沢したいなあ、という時に、ちょくちょくお邪魔しています。
鰻のおいしさももちろんのこと、老舗なのにあんまり構えていないところが魅力です。散歩していて、お腹が空いたらすっと入れるような、気軽さがいいですよね。
コロナの終息を願って、こんな貼り紙が。
ちなみに店内には元々席ごとに間仕切りがあって(1階)、ディスタンスが十分保たれています。
2020年の「土用の丑の日」は2回ある
鰻といえば「土用の丑の日」。今年はその「土用の丑の日」が、7/21と8/2の2回もあることをご存知でしたか?タンパク質やビタミンB1が豊富な鰻は、夏バテしやすいこの季節にうってつけ。万葉集にも夏バテの人に鰻を勧める歌があります。
「石麻呂に 吾れもの申す 夏痩せに よしといふものぞ 鰻とり食せ」
<大伴家持 『万葉集』 巻16-3853>
近年、稚魚が激減してどんどん希少になっていますが、今年は数年ぶりの豊作なのだそうです。わたしたちの口にも、少し入りやすくなるかもしれませんね。
大きさで選べる、鰻重の種類
席に通していただき、すぐに注文します。
白焼きも捨てがたいですが、ここは鰻重をチョイス。松川さんの鰻重メニューには、菊(130g)、桜(170g)、藤(200g)、葵(230g)、希少な共水鰻を使った「匠」という特別なお重もあります。
鰻を待つ間に、しれっとビールでひとり乾杯。以前、ご年配のご婦人がおひとりでビールと鰻を楽しんでいらしているのを見かけて、いいなあ、やってみたいなあ、と思っていたのです。
ビールのお供は「うなぎ百選」。有名どころの鰻屋さんには必ず置いてある小冊子です。
「うなぎにまつわるエッセイ、業界の話題など、うなぎの話題満載の季刊誌」(「うなぎ百選」サイトより)なのだそう。こういうマニアックな冊子って面白いですよね。うなぎ愛が、冊子のそこかしこにあふれています。
さて、鰻重到着!
そうこうしているうちに、鰻重が到着しました。
お重、お吸い物、香の物に口直しの甘味がついています。
お重のふたを開けてみます。一番テンションが上がる瞬間!
じゃーん!
うーん、いい匂い!胃袋直撃の香ばしい匂いが立ち上ります。
お重の裏に小さく記された「松川」の文字に、老舗らしさを感じます。
松川さんのタレはあまり甘味が強くなく、あっさりしています。タレの量も多すぎず、ご飯の淡白さがしっかり守られているのが個人的には好きなポイントです。鰻自体の風味が生きる、なおかつ食が進む、絶妙のバランスです。
大切に食べて、次世代につなげていきたい
創業以来、70年以上もこの渋谷の地で鰻を提供し続けている松川さん。渋谷のど真ん中で、街の変遷を眺め続けてきたのでしょう。お店の場所はもちろん、間取りも創業当時から変わっていないと、お店のかたに教えていただきました。かつて、大人が集って楽しむ街だった渋谷の雰囲気を今に伝えるお店です。
ニホンウナギは2013年に絶滅危惧種に指定されました。わたしたちがおいしい鰻やその文化を次世代に伝えていくためには、持続可能な消費のしかたを考えてやっていく必要があります。出どころのしっかりした鰻を適正な価格でいただく、というのもそのひとつなのではないでしょうか。
もうすぐ2回目の土用の丑の日。大事に育てられ、職人さんが技をこらした鰻を、老舗の雰囲気の中で味わってみてはいかがでしょう?
八田吏(はった・つかさ)
ライター。
NPO法人で、産後の社会問題に関する調査研究に携わる。個人活動として短歌の会を隔月で開催。自宅から一番近い繁華街が渋谷なので、映画に行くのも友達とのお茶も、本や洋服などの買い物も、だいたい渋谷区内で完結しています。