シブヤまちづくり散歩とは
未来のシブヤはどんな街? 渋谷区では、様々な社会状況の変化や、技術革新を踏まえた上で、「渋谷区基本構想」をまちづくりの視点から実現化する「渋谷区まちづくりマスタープラン」(以下「渋谷区まちマスプラン」)の策定が進んでいます。2017年9月に始まった「渋谷区まちマスプラン」をはじめ、シブヤで行われる様々なまちづくりの取り組みを追いかけます。
「ちがいを ちからに 変える街」をみんなで考える
何かしらの理由で渋谷という街に関心があって「シブヤ散歩新聞」を訪れたあなたならば、「ちがいを ちからに 変える街」というフレーズを、どこかで目や耳にしたことがあるでしょう。これは渋谷区が2016年10月に策定した「渋谷区基本構想」のスローガンです。
2015年に「同性パートナーシップ条例」が施行されるなど、他の自治体とは異なる取り組みが注目される渋谷区。今回、取材に訪れた「渋谷の未来を描くワークショップ」も、「渋谷に関わる皆さんの想いを聞く」として開かれた、行政主催としては珍しい取り組み。一市民の意見が、これからの渋谷区のまちづくりの基本方針に反映されていくというのだから、「シブヤ散歩新聞」としても注目しないわけにはいきません。
ということで、6/23(土)に開催されたワークショップの会場を覗いてきましたよ。大盛況のうちに終わった、当日の様子をお伝えします。
渋谷区内5つのエリアで開催されるワークショップ。第一弾は笹塚・幡ヶ谷・初台・本町周辺エリアを対象に、幡ヶ谷区民会館で行われました
幅広い年齢層にドキドキの開会前
「未来を描くワークショップ」と聞いて、楽しそうなイメージしか湧かず、ワクワクしながら会場に向かった私。ところが、足を踏み入れるなり、会場内にはなんだか緊張した空気が。
というのも、来場者は若年層からご年配の方まで、とにかく年齢層が幅広い。「ちがいを ちからに 変える」と言ったって、そもそも会話が盛り上がるのかな……。会場内の皆さんからも不安そうな表情が伺えます。
テーブルに準備された「自己紹介シート」に記入しながらも、皆さん緊張の面持ち
ドキドキしながらも開会の挨拶がスタート。そして「渋谷区基本構想」のPRソングである「夢見る渋谷 YOU MAKE SHIBUYA」が映像と共に流れました。カジヒデキのポップなメロディに野宮真貴の歌声! さすがアートの街! やっぱり渋谷は違うわ〜。と、しばしうっとり。でも、緊張感いっぱいでシーンとした会場内に流れるポップなメロディって、なんともシュール!(笑)この世界観、ご年配の方に受け入れてもらえるのかしら?
そんな心配をする私の前に現れたのが、渋谷区長の長谷部健さん。
「基本構想は、どの地方自治体にとっても政策の最上位概念にくるものです。全ての計画がそこに紐づいて行われていきます。行政に対するご提案も、この構想に紐づいていると、通りやすい。だから、たくさんの人に知ってもらうことが必要なのです。そのために、こうして映像化したりハンドブックを作ったりして、わかりやすい形にしています。」
なるほど。お恥ずかしながら、基本構想というもの自体、あまり知りませんでした。でも、どの自治体の基本構想を見てみても、文章の羅列ばかり。正直、読むにも気が遠くなりそうです。それに対し、自治体の目指すゴールがパッと見でつかめれば、理解しやすい。今回のワークショップも含め、渋谷区の、市民への歩み寄りを感じる試みです。
「渋谷区基本構想」の概要を、絵とわかりやすい文章でまとめたハンドブック
渋谷区 マスタープラン担当課長の森田さんより、プラン概要の説明。「5つのエリアを対象に行うワークショップ、このエリアが第一弾です!」と、意気込みも十分。
渋谷区まちマスプラン全体の企画を手伝う日建設計総合研究所の渡部さん。今後予想される社会変化や技術革新など、渋谷の未来を考える上で重要なポイントを説明しています。
キャラクター作りから描き出す、渋谷の未来像
ワークショップの始まりは、テーブルに準備されていた自己紹介シートを使ったグループ作りから。「お名前・ニックネーム」「渋谷との関わり」「渋谷(笹塚・幡ヶ谷・初台・本町周辺)のココが好き!」「ライフスタイルのなかでのこだわり」を書いたシートを持って、気の合いそうな人を探します。
自己紹介のお手本を見せる、株式会社石塚計画デザイン事務所のファシリテーター2人
自己紹介シートを見せながら歩くのはちょっぴり照れ臭い? でも、関心事の近そうな人を探すのは、なんだか楽しそうです。
しばらくして10ほどのグループが出来上がり、3つのテーブルに分かれて着席しました。お次は、「未来の渋谷に住むキャラクターをつくりましょう」「同じテーブルに座った人同士で、キャラクターを紹介して、個性を深めていきましょう」とのアナウンス。
おっと、これまたハードルの高いお題ではないですか! アバターなどに慣れ親しんでいる若年層はまだしも、ご年配の方にはピンと来づらいのでは? と、またまた余計な心配をする私をよそに、各テーブルに1人ずつ配置されたファシリテーターさんが、皆さんのアイディアをどんどん引き出していきます。
「キャラクターのサンプルシートを参考に」「自分らしくイキイキ暮らしている未来の渋谷民を」と促され、それぞれの関心事から発展したようなキャラクター案がいくつも飛び出しました。いつの間にか、皆さんの表情も和やかに。関心事が近ければ、年齢幅だって飛び越えられるのですね。
個性豊かなキャラクターがたくさん誕生!
キャラクター案は、あくまで「渋谷の未来像」を考えるためのフックとなるもの。さらに「この中から3人のキャラクターを選びましょう。彼らが渋谷で世界から注目されることをするとしたら、どんなこと?」と、アイディアをどんどん引き出すファシリテーターさん。付箋紙を巧みに使いながら模造紙にまとめていきます。
皆さん笑顔を見せながらも、交わされる会話は真剣そのもの。「人が集まるところに、渋谷ならではのキャラクターがいたら楽しいですよね」「地域の情報を知らせてくれたり、引っ越してきた人に観光案内してくれたり」「情報といえば、自分の通う大学では、どんなにデジタル化が進んでも、人がそこに集まることが大事だからと、掲示板の文化が残っています」「そういえば町内会の掲示板にも、重要なお知らせが貼られてるけど、あまり見られていないですよね……」「前を通るとキャラクターが話しかけてきて、自分に必要な情報を教えてくれるとか、AI技術を使えばできるかも!?」といった具合に、話はどんどん膨らみます。
どのテーブルも、気づけば大盛り上がり。歩き回って背後から様子を伺っていた私は、あっという間にそれぞれの会話と熱気についていけなくなってしまいました。あ〜、私も参加者として熱く語り合いたかった!
模造紙一面に書かれたアイディアの数々。いかに盛り上がったかは一目瞭然でしょう!
どんな意見も受け入れ、まとめてくれるファシリテーターさんのおかげで、思いの丈を存分に語ることができたのでしょう。自分のテーブルでまとめられた模造紙を見て、皆さんの表情も満足そうでした。
未来志向の発想と、今日からできる自らの意識改革
さあ、待ちに待ったグループ発表です。他のグループでどんな意見が出たのか、どの方も興味津々の表情。
◎地域のことをよく知るおじいちゃんを中心に、地域のみんなでアンドロイドくんを開発!
アンドロイドくんが身近な公園やコンビニで、街案内や安全の見守りをしてくれる
◎街の中に大きなリビングみたいなものがあり、そこで毎日お茶会を開いているキャラクターがいる
◎町内会の掲示板をデジタル化!
前を通ると『そろそろ幼稚園の申し込みの時期ですよ〜』などと、キャラクターが話しかけてくれる
といったキャラクター案をフックに、様々な渋谷の未来像が発表されました。どのグループも、アナログとデジタルが程よく掛け合わされているのが面白い!
そのほか、「ベランダでゆるく繋がれる共有菜園付きのマンションを作る」「地域の人同士で空き家シェアリングをして、景観対策と空き家対策にもする」「地域に貢献した人に対し、ありがとう券を発行し、商店街でクーポンとして使えるようにする」など、まちづくりの具体策も生まれました。
発表の中で出てきた「良い距離感の都市型コミュニティ」というキーワードも印象的でした。どれだけ技術が進化しても、やはり皆さん、人と人とのつながりを求めているようです。アナログとデジタルの掛け合わせで「程良い距離感」が実現できるといいですよね。
お母さんの発表中にお子さんが「しゃべらないで〜」と割り込み、会場の笑いを誘うシーンも
個人的には、「こんな未来にしたい」だけでなく、「そのために普段からこうしよう」という意識改革に結びついていたことに心を動かされました。「普段から挨拶をしっかりすることが大切だと思った」「描いた未来像のためには、今から商店街の活性化が必要」など、今日から自分ができることは何だろうと考えるきっかけにもなっていたようです。
お母さんに連れられて参加していたお子さん作のキャラクター。大人同士が真剣に話し合う場でも、ちゃんと楽しめる子どもって、すごい!
それにしても、なぜこれだけ未来志向の発想が生まれたのでしょう。まちづくりと言うと、どうしても現在の課題にばかり目がいきがちなイメージなのに。どうやら、ワークショップの構成に仕掛けがあったようです。いくつかある仕掛けの中でも面白かったのは、キャラクターの活躍案を考える際、あるテーマに関連させるようにしていたこと。
そのテーマとは、「まちマスプラン」で20年後に目指すべきとして描かれた、下記5つの未来像です。
未来像01 子どもや高齢者をはじめ
誰もがいきいきと成長・活躍している
未来像02 健康的な都市生活が
アクティビティを生みだしている
未来像03 誰もが環境や防災に配慮し
持続可能な都市が実現している
未来像04 世界を魅了する
多様な渋谷らしさを体感できる
未来像05 渋谷発の文化とビジネスが
刺激に満ちた都市を創出している
渋谷区が描く未来像の中で活躍するキャラクター達。そんな設定があったからこそ、前向きな案がたくさん生まれたのですね。
ありえない掛け合わせで起きる化学変化が面白い
あんなに緊張感いっぱいだった会場が、こんなにも盛り上がったことに感動すら覚えた私。終了後、司会進行をされた、株式会社石塚計画デザイン事務所の野渕さんにお話を伺ってみました。
株式会社石塚デザイン計画事務所は、まちづくり組織の運営支援などを行う民間企業です
「『普通のワークショップで終わらせたくない』という渋谷区の思いを受けて、構成を練りました。一貫していたコンセンプトは『ちがいを ちからに 変える』のスローガン。1人ではなく、3人のキャラクターを選んでもらったのは、『ちがい』を意識してもらうためでした。そのおかげか、ありえない掛け合わせの発想が生まれて面白かったです。例えば、アンドロイドを開発しよう、というところまでは普通の発想かもしれません。そこに、大家族のおじいちゃんが出てきて、アンドロイド開発にその叡智を生かそう、というのは、なかなか生まれない発想ですよね。」
参加者の方からも「年配の方の話を聞ける機会はなかなかないので、とても楽しかった」「普段SNS上で交流しない人たちの声が聞けた」といった感想が。
私も普段、年代や価値観の近い人と話すことが多いので、こうして多種多様な方と話ができる機会は貴重だと感じました。多様な人同士で、お互いの違いを受け入れながら一緒に「まちづくり」を考えれば、化学変化が起き、未来につながるエネルギーとなる。「ちがい」が「ちから」になるとは、まさにこういうことなのかもしれません。
「こんな街になるといいな」のために、今の自分ができることは何だろう。私自身もそんなことを考えながら、たまに訪れる幡ヶ谷の街が、なんだか違って見えた帰り道でした。
「渋谷区まちマスプラン」への参画チャンスは他にも!
あなたなら、渋谷にどんな未来を描きますか?
このワークショップは3セッションに分かれており、1回目と2回目が同日開催された幡ヶ谷区民会館での開催は、残り1セッション。3回目は11/10(土)と少し先になりますが、この日の熱気が再び蘇るのでしょう。この会場を皮切りに、残りの4エリアでも同様のワークショップが開催されます。それぞれのワークショップであがった意見は全て記録され、渋谷区まちマスプランに反映されていくそうです。
先の渋谷区長の話にもありましたが、「渋谷区基本構想」に紐づいていれば、提案も受け入れてもらいやすいとのこと。あなたも「こんな街にしたい」という思いがあれば、基本構想にどう紐づけられるか、考えてみませんか。(「渋谷区基本構想」のハンドブックもこちらから見ることができます。)
ワークショップに参加することが難しい方も、「まちマス提案箱」で意見を出すことができます。(投稿方法などの詳細は、こちらからご覧ください。)
渋谷区のまちづくりへの参画機会は、様々な形で用意されています。これから約20年先の未来を考える貴重な機会を、どうかお見逃しなく。これからのシブヤがどんな風に変わって行くのか、一緒に見守っていきましょう!
黒木瑛子(くろき・えいこ)
東京の多摩地域に暮らすライター。都心育ちだけど都心の人混みはちょっぴり苦手。京王線ユーザーなので、渋谷駅よりも新宿駅派。でも「新宿のようで実は渋谷区!」なエリアの散歩は大好き。シブヤ散歩新聞では、「ほぼ新宿」な渋谷エリアの魅力を発掘予定。散歩をしていると、レトロな喫茶店、古い絵本や古道具の置かれた雑貨店など、「古き良き」な雰囲気のものに引き寄せられます。