日本全国どこに行っても店の数は多い焼肉店。食べ放題で肉をお腹いっぱい食べようとすると、どちらかといえば質より量になりがちです。そんな常識を覆し、和牛の焼き肉をリーズナブルにお腹いっぱい楽しめるお店が渋谷に2店、あるのです。
和牛の食べ放題で差別化をはかる、ワンランク上の焼肉店を経営する株式会社イースタイルの川嶋章さんにお話を伺いました。
シンプルに和牛の旨味を味わう、溶岩石のロースター
1店目にご紹介するのは、渋谷センター街から一歩入ったビルの4階にある「炭治郎」。赤を基調とした店内をぼんぼりのような明かりが照らし、大理石柄のテーブルの真ん中にはロースターが置かれています。ポスターや貼り紙もなく、大人っぽくてシンプルな焼肉屋さんの雰囲気です。
ロースターの中には、炭かと思いきや、見慣れぬ塊が並んでいます。お聞きすると溶岩石とのこと。
「店舗によってそれぞれなのですが、ここでは炭ではなく、溶岩石を使っています。焼き肉は炭火が美味しいと言われていますが、炭のメリットは逆に美味しさかないんです。いくら掃除しても汚れるし、匂いもつきます。溶岩石は匂いがほとんどなくて、肉本来の味をそのまま味わうことができます。火の調整もしやすいです」
ガスで熱した溶岩石は、炭と同じように放射熱と遠赤外線で肉をじっくりふっくら焼くことができます。落ちた脂は焼き切り、炭と違って毎回取り替える必要もないそうです。
壁には和牛のブランドの札が並んでいます。海外にもよく知られている神戸牛の他、松坂牛や米沢牛など、日本全国の有名なブランド牛がずらり。
「牛肉は、和牛・国産牛・輸入牛とわかれていて、美味しさにもやはり違いがあります。ただ、和牛のブランドに関してはそれほど差が大きくなくて、銘柄で食べ比べると、美味しさでは区別がつかないぐらいです。」
「ブランドにこだわるお店もありますが、うちはA5ランクの和牛が最低限のこだわり。あとは信頼できる業者さんに、ランダムでいいものを提供していただいています。今日だったら、鹿児島県の和牛ですね。」
A5ランクといえば、和牛の中でも最高級のレベルです。目利きの業者さんが選んだ、その時一番の新鮮な和牛のカルビやロースの焼肉が食べられるとすると、何度も通って試してみたくなります。
「このお店は『炭治郎』というブランドで、1号店は新宿店になります。焼肉店をやろうと決めた時、たまたま歌舞伎町の真ん中で居抜きの物件に出会いました。コロナの時期で、倒産するお店が多い中、私は逆に新しい店をやりたくて。」
「オープンした後、本当に色々試行錯誤して、食べ放題というコンセプトが定着しました。軌道に乗ったのを数字で確認して、2021年に2号店となる渋谷店をオープンしました。このお店も新宿店と同じように、17年続いていた老舗の焼肉店だった物件を居抜きで引き継ぎ、若干の改造とロースターテーブルを完全に変えただけで出店しました。清潔感といいお肉を出せればそれでいいかなと」
「炭治郎」は出会った物件を上手に使い、新宿店、新橋店、渋谷店とオープンしてきたとのこと。初期投資を抑えつつ、実績をしっかりと積んできたことがわかります。
「次にご案内する店は、全くイメージを変えたブランドのお店です。」
炭治郎を後にして訪れた次の店舗は、確かに予想以上のインパクトがありました。
インバウンドを意識、広々と居心地の良い「和」の空間
井の頭通りの「渋谷エメラルドビル」は、モダンで和のテイストも感じられる商業ビル。その4階に、渋谷の2店舗目「焼肉サムライ 渋谷店」はあります。階下には有名なチェーン店「俺のイタリアン」「俺のやきとり」が入っています。
「次の店はイメージを変えたいなと思って探したのですが、なかなか気になる物件がなくて。たまたま新築のビルが建つことを知り、一から作った店が新しいブランドの「サムライ」です。サムライが開店したのは昨年、2023年の11月ですが、このビル自体が建ったばかりの新しいビルです。」
センター街から井の頭通りへとお話を聞きながらエメラルドビルに入り、エレベーターの扉が開いてびっくり。戦国武将の甲冑が2体。まさにサムライのお出迎えです。
「私は戦国武将が結構好きなんです。日本の伝統を意識して色々考えた時、刀とか鎧とかを飾るのがおもしろいと思って。新築のビルは制限が少なく、デザイナーに頼まず、一から全部自分で作りました。和室のように堅苦しい作りじゃなくて、「モダン」プラス「和風」な感じで作り上げました。」
ソファは高級感を意識したオレンジ色に茶色のベルト。天上からは、戦国武将の名前を記したランタンが下がっています。テーブルの上のロースターは無機質なステンレス製で、言われなければ焼肉屋とはわからないようなクール感のあるテーブル席です。
「最新式の設備、無煙ロースターです。遠赤外線でふっくら焼けるけど、炭と違って煙も匂いもありません。上から煙突につないだり下からつなげたりする換気口がない、ノンダクトのロースターです。お客様が焼肉を食べながら会話する時、邪魔になるんですよ、ダクトって。」
確かに、上にはらんたんが揺れていますが、通常焼肉屋で見るテーブルごとのダクトが見当たりません。肉を焼いた時に出る脂は水を張ったトレイに落ちるので、煙が出ることはないそうです。
「ガスは使いますが、匂いも煙も出ません。せっかく新しいビルに一から作るお店だから、清潔感を出したかったですし、広さや座り心地も大事。ホテルのレストランとまではいきませんが、雑居ビルとはまた違って、環境的にはいいかなと思ってます。」
飾ってある甲冑も、子供騙しのおもちゃとは違います。使われている織物も美しく、完成度の高さは一見の価値があります。
「鎧も手作りの特注で、一体が100万円ぐらいです。本当に身に着けて外を歩けるぐらい本物です。」
この雰囲気にこの空間の広さで、客層はインバウンドを意識しているそうです。
「新宿や新橋のお店と違い、渋谷の2店は来客の70%が外国からの観光客なんです。日本を訪れた外国人にとって、代表的なグルメといえばお寿司と和牛が上位に入ります。渋谷には、センター街もスクランブル交差点もあって、ドンキホーテもある。外国の皆さんの反響が大きいです。特に「サムライ」は完全にインバウンドがターゲットです。」
「十分な広さがあるので、お客様を何十人でも予約でお受けすることができます。昨年12月の年末には企業の忘年会など60人とか80人の団体が入りましたし、新年が明けて1月には海外から40人とか50人のツアーをお迎えしました。色々と柔軟に対応させていただいています。」
コスパ最強、食べ放題のコースが絶対お勧め
気の合う仲間と高級な焼肉を味わうにふさわしい、昔ながらの焼肉屋である「炭治郎」に、観光客や団体客の居心地の良さを追求し、箱の大きさを活かした「サムライ」。渋谷の2店舗は、コンセプトがはっきりわかれています。お店の雰囲気はずいぶん異なりますが、メニューはどうなのでしょう?
「基本的に、炭治郎もサムライも、メニューは同じです。食べ放題のコースに、アラカルトもしっかり用意しています。選ぶ時はぜひ、コスパを考えてみてほしいですね。ホテルのレストランや高級店で、高くて美味しいのは当たり前。多少お金を出して5、6千円使えるなら、うちの食べ放題が絶対おすすめです。美味しい和牛を、良心的な値段で、かつリーズナブルにお腹いっぱい、飽きるまで食べてもらいたい。そう思っています。」
美味しい和牛をお腹いっぱい食べてほしい。川島さんの熱いメッセージに、食べ放題一択のような気すらしてきます。
食べ放題のメニューには、3つのコースがあります。違いは食べ放題の和牛の部位にあります。
「和牛をどこまで食べたいか、で選ばれるのがいいですね。一番お安めのスタンダードコースはカルビが食べ放題。コスパ最強のコースでは、ロースに中落ちカルビ、厚切り上タン、プライムハラミや骨つきカルビが加わります。その上の贅沢な最上コースになると、希少部位が追加されます。」
「希少部位は、有名な焼肉店だと一皿2千円ぐらいと値が張るものですが、最上コースではいくらでも食べることができます。コースのお値段は少し高めかもしれませんが、そもそもこのグレードの希少部位の素材は扱っている店が限られます。それが食べ放題になる。コスパが最強なので、予算があるなら頑張ってこちらを食べてみてください、ってお勧めしています。」
バラエティの豊かさは、牛肉の部位だけではありません。国産鶏に豚肉、羊肉のジンギスカンに、ジビエの鹿や猪まで。肉の種類の多さには目を見張るものがあります。
「外国出身のお客様の中には、牛肉は食べられない人もいるんですよ。でも大丈夫、私の店には羊もあるし、鶏も豚肉も全部ある。美味しいから、全然気にしないでくださいって言ってあげられます。メニューを豊富にすることでお客様は色々楽しめますよね。」
豊富な焼肉メニューに加えて、食材のクオリティの高さも見逃せません。例えば焼肉のタレは、リンゴやレモンなどフルーツを使ったさっぱりしたオリジナルを用意。塩は普通の塩ではなくてピンクの岩塩。白いご飯の米はコシヒカリ。美味しく食べることへのこだわりが川島さんのお話から伝わってきます。
「私は食べ歩きをするのが趣味で、食べることが大好きなんです。美味しいものがわかるし、お店では美味しいものしか出したくありません。」
「希少部位は、有名な焼肉店だと一皿2千円ぐらいにまで値が張るものですが、最上コースではいくらでも食べることができます。コースのお値段は少し高めかもしれませんが、そもそもこのグレードの希少部位の素材は扱っている店が限られます。それが食べ放題になる。コスパが最強なので、予算があるなら頑張ってこちらを食べてみてください、ってお勧めしています。
ご自分を「食いしん坊」だとおっしゃる川島さん。後編は、川島さんがお勧めする食べ放題の楽しみ方と、川島さんが手がけているビジネスについてお伺いします。お楽しみに。
炭治郎 渋谷店
https://tabelog.com/tokyo/A1303/A130301/13271689/
東京都渋谷区宇田川町30-3 アトラス渋谷ビル 4F
050-5589-2320
営業時間
月~日・祝前日・祝日
ディナー 17:00~23:00(L.O.22:00、ドリンクL.O.22:30)
金~日・祝日
ランチ 11:30~16:00(L.O.15:00、ドリンクL.O.15:30)
日曜営業
定休日 不定休
焼肉サムライ 渋谷店
https://tabelog.com/tokyo/A1303/A130301/13289416/
東京都渋谷区宇田川町12-7 渋谷エメラルドビル 4F
050-5600-9974
営業時間
月~日・祝前日・祝日
ディナー 17:00~23:00(L.O.22:00、ドリンクL.O.22:30)
日曜営業
定休日 年中無休
谷井百合子(たにい・ゆりこ)
会社員からライターへ転向。腰の軽さと興味に乗っかる行動力で、ビジネストレンドやブックレビュー、食や旅にも題材を広げている。
興味のあるジャンルは、カフェ、本、料理、工芸、建築、など。渋谷界隈で出会った美味しいものや素敵なものを、テンションの上がった気持ちものせてご紹介します。