「アシュラム」って知っていますか?
ヨガをしない人には耳慣れない言葉だと思いますが、アシュラムとは、精神的な修養をするインドのヨガの道場のようなもの。いわゆるヨガスタジオとはちょっと、いや、かなり違います。
何が違うかというと、日本のあちこちにあるヨガスタジオは、ヨガのレッスンをする場所。
それに対してアシュラムは、生活のすべてがある場所です。人と共に過ごし、共に食事し、共に掃除をし、共に精神的な修養をする場所という位置付けです
そのアシュラムが、中目黒と代官山のちょうど間にできました。
できました、と言っても最近オープンしたという意味ではありません。2014年にオープンしたヨガスタジオを、日本人のオーナーとインド人の先生が、2年かけてアシュラムへと成長させてきて、ついに自信をもって「アシュラムになった」と言えるようになった、ということです。
代官山からだと、槍が先の交差点から坂を下った場所に、中目黒からだと、坂を上った場所にあります。
FLOW ARTS yoga。マンションの一室です。
2014年11月に日本人女性のPadmini先生(パドミ二先生)がスタジオをオープン。翌年の5月にはインド人のMukesh先生(ムケーシュ先生)が講師として来日し、哲学やサンスクリット語、ハタヨガなど伝統的なインドの教えを伝えています。
Mukesh先生の1日は朝4時30分に始まります。歯を磨き、シャワーを浴びて体を清め、みんなのためにチャイを作り、お祈りをして、アーサナ(ポーズをとるヨガ)の練習をします。
朝7時からクラスでハタヨガを教えますが、実は生徒さんたちは朝6時よりも前からスタジオに入り、それぞれ練習をしていたりします。
Mukesh先生:最近はクラスの前に2、3分、みんなにシェアしたいことを一人ひとり話してもらっています。ヨガを通じて変化していることとか、最近感じていることとか。お互いに話すと「一緒に練習をしている仲間がこういうことを考えているんだな」とわかるのがいいですね。
8時にクラスを終えた後は、みんなでチャイタイム。チャイを飲みながらみんなで話をし、そのあとはみんなでお掃除します。
Padmini先生:Mukesh先生も、一休さん拭きで床を拭きあげるんですよ!
Mukesh先生:生徒さんたちは掃除だけじゃなくて、ブランケットをクリーニングしてくれたり、マットもきれいにしてくれたり、本当にアシュラムみたいです。
その後は、クラスで教えることもあり、Padmini先生たちのクラスを受けることもあり。ランチタイムにはササッとご飯を作ります。メニューはいつもライスとスープ。
Mukesh先生:料理をすることもスピリチュアルワーク(精神修養)です。瞑想も練習も、精神的な勉強も、体が資本なので、いい食べ物を食べないといけません。だから精神修養をしている人は、料理もします。
Padmini先生:Mukesh先生は必ず料理をします。料理には作る人のエネルギーが込められる、ということをすごく大事にしているので、あちこちでご飯を食べないんです。いろいろなところで食べると、いろいろな人のエネルギーをもらっちゃうからと。
ランチの後は、勉強をして、練習をして、教えたり、洗濯も時間を見つけて手で洗います。夜は11時30分に就寝します。
Padmini先生:Mukesh先生は無駄なことを一切せず、生活とか、練習とか、勉強、コミュニケーションにすごく時間をかけています。だからみんながちょっと元気なかったりすると、すぐに気付いてくれるし、みんなも人生のいろんな悩みを先生に相談しています。
心に留めておきたい ヨガをする人たちのルール
Mukesh先生が書いたあるものが、いま、とても人気です。
それは、Yogi’s ルール。
・言葉を話す時に、スイートな言葉を選びましょう。
・他者から傷つけられた事は許して、忘れましょう。貴方を嫌う人にも良い行いを。
・何事にも、誰にも執着しないように。
など、物ごころ着いた頃から両親や師に学びながら積み重ねてきた日々の過ごし方のルールを、Mukesh先生が書き起こしたものです。いま、40個ほどあります。
毎週土曜日の午後4時からは、このYogi’s ルールについてMukesh先生が話す「ヨギーのルール」という90分のクラスも開かれるようになりました。
Padmini先生:普段私たちがどういうものの考え方をしていているのか、それをどう変換すれば楽に生きられるか。私たち自身は習慣で人生が成り立っているから、それをどう変えていくか。怒りという感情はどこからくるのかとか、そういうことを話してくれます。
どうやってマインドをコントロールできるようになるのかとかは、Facebookでも書いてくれています。これを読むと心が正される、みたいなものを。
精神的な修養で心を整えるのが本来のヨガ
いま、日本をはじめ多くの先進国で行われているヨガは、肉体的な強さや柔軟性だけを目指してアーサナをするヨガが主流になっていますが、これは、昔からインドで伝えられてきたヨガとは違います。
Mukesh先生:いまのヨガを現代ヨガとするなら、昔からの古典ヨガは精神的な教えを通して、心を整えるもので、言い換えれば精神的な修養です。アーサナはあくまで平和なマインドを持つための基礎をつくるものであり、肉体のためだけにアーサナをする現代ヨガとは目的が違います。だから私は精神的なもの、内側のヨガを広めるためにFlow Artsに来ました。
私が伝えたいのは哲学の部分だけれども、アーサナはみんなが入りやすいし、哲学を伝えるための準備として、アーサナは必要です。瞑想の準備ですね。それに、私たちは普段体に毒素をたくさん取り入れているので、アーサナの練習で汗をかくことで、体の毒素が出ていきます。だから、アーサナのクラスも教えますが、アーサナクラスの途中でも哲学の話を必ずしています。
Padmini先生:ヨガの根本経典であるヴァカヴァッド・ギータとか、サンスクリット語で書かれているテキストの一節とかを持ってきて話してくれますね。
Flow Artsには、先生たちと生徒さん、そしてその家族を含めた素敵なコミュニティができました。生徒さんがご両親を連れてきたり、子どもがハイハイをしていることもあります。
みんなが集い、一緒にご飯もたべるし、お茶も飲む。お互いの人生についても語り合っているこの場所は、まさに、インドのアシュラム。
Mukesh先生:ここは本当にGood Familyですね。練習に対する意欲やお互いを思いやる様子、練習に使う道具を大切にする姿、謙虚さは、とてもうれしく思っています。
これから先もずっと日本にいるのでしょうか?
Mukesh先生:そうですね、しばらく。
Padmini先生:Mukesh先生はあんまり先のことを考えないんですよ。1日1日を大事に過ごしているので、先々のことも、過去のことも。先々のことは考えたら恐怖になり、過去のことを考えると涙が出る、と言っています。
Mukesh先生の落ち着いたただずまい、そしてどこまでも澄んだ美しい目。ヨガを学んでいる人なら、いつか「こうありたい」と思う存在。
体を動かすヨガをしない人にも、オススメしたいこのアシュラム。ぜひ、Mukesh先生の話を聞きに行ってみてください。
【スタジオ情報】
FLOW ARTS Yoga
東京都目黒区中目黒1-3-5 目黒プリンスコーポ203
http://flowartsyoga.com
https://www.facebook.com/FlowArtsYoga/
【講師プロフィール】
・Mukesh Thapliyal(ムケーシュ タプリャル)
インドに生まれ育ち、2歳の頃より師と共に暮らしながら学ぶ、伝統的なグルクラシステムにおいて学ぶ。純粋な知識を得るためにサンスクリット語を学び、ヴェーダ(全ての哲学や宗教、ヨガやアーユルヴェーダの元となる最古の知識)、バカヴァット.ギータ、インド占星術やヨガ、インド音楽を学び続ける。インド_リシケシをベースに、インド中を旅しながら、プージャ(伝統的な神への祈りの儀式の一つ)やプリーチ(神からの知識を伝える)を行い、子供から大人まで、現地の人々や外国人と幅広い対象にヴェーダの知識を伝える。
・Padmini / 濱奈津代
アートスクール卒業後、国内、海外でのファッションに関わる仕事を経て、自然治癒力を高める事への興味から、ヨーガに出会う。ヨーガが毎日の生活の中心となり、NYスタイルのヨーガを学び、ここ数年はFLOW ARTS のインド人講師 Mukesh Thapliyal とMukesh Dabral にインドの伝統的な教え、そしてその教えに基づく生き方を学び続ける。ヨガを学ぶ事で得られる内側から来る豊かさや、ヨガをシェアする場から得られる喜び、人々や世界との関わりの変化を一人でも多くの方々とシェアするために、ヨーガコミュニティとしての場として中目黒にヨガスタジオをオープン。 http://padminitimes.com
平地紘子(ひらち・ひろこ)
フリーライター/ヨガインストラクター。10年以上お堅い新聞記者だったのに、3年間のアメリカ生活でヨガインストラクターに転身。でもやっぱり、書くのも好き。かなり色黒なので「サーファー?」と聞かれるけれど、見かけ倒し。スッピンのまま自転車で中目黒界隈を駆け抜けているだけです。ヨガウェアで魅せる筋肉美が最近のプチ自慢。フィットネスやマッサージなど、体にいい情報をお伝えします!
yoga teacher HiRoko HiRachi