「一生ものの趣味になりますよ」
「レコードの聖地」である渋谷に開店して26年、アナログレコード専門店Face Recordsの渋谷店店長、日比さんの言葉です。取材の最後に聞いたひとことには説得力がありました。
音楽といえばストリーミングが主流の今、アナログレコードに再び関心が高まっています。Face Recordsさんは、究極の音を求める愛好家から絶大な支持を受ける一方で、これからレコードに出会う人たちの層を広げたいと、さまざまな試みをされています。Face Recordsを運営するFTF株式会社の広報、佐取さんにお話を伺いました。
2つのFace Records @渋谷 それぞれのカラー
「今、ようやく渋谷の街にも人が戻ってきています。外国人の方も見かけるようになって、戻ってきてくれたのかなと」
渋谷にはFace Recordsが2店あります。1996年宇田川町に開店した渋谷店に続き、宮下パーク店がオープンしたのはコロナ真っ只中の2020年でした。2つの店舗にはそれぞれ、カラーがあるといいます。
「宮下パーク店は、レコード屋さんに行くというより、お茶したりデートしたりしながら、ふらっと立ち寄った方々がレコードに興味を持っていただけるよう、あらゆるジャンルの定番をまんべんなく揃えています。シティポップなど、日本の音楽も多いですね。」
一方、老舗の渋谷店は、宇田川町の東急ハンズの少し先、レコードの聖地として有名な「シスコ坂」にお店を構えています。DJなどプロの来店も多いそうですが、かわいらしい店構えに、中はウッディなあたたかみのあるスペース。
「ジャンルは、ジャズ、ソウルなど、ブラックミュージック中心です。特にジャズは、店長の知識が深く、玄人のジャズファンにも楽しんでいただけるほど、力を入れています」
ジャケット自体がアートのように大切に展示されています。撮影に使われることも多いというのもうなづける、おしゃれな空間です。
レコードに興味を持つ レコードを知らない世代
レコードショップを訪れるのは、一部の愛好家やコレクターに限らず、その客層は広がりを見せています。宮下パーク店は特に、若い世代の関心も高いといいます。
「20代前半は、もの心ついた時からYouTubeやネット配信があり、アナログレコードに触れる機会はない世代ですが、自分の手を使ってレコードを聴くという行為や、アナログを楽しむということが、おしゃれとかかっこいいとか、新鮮に映っているようです。」
「時代時代のアイドルのメイクやファッション、80年代の色彩とかフォントなど、ジャケットに興味をもたれて、プレイヤーを持っていないけれどレコードだけ購入し、インテリアとして楽しむ方もいます。」
音楽を軽く飛び越え、その時代のセンスやデザインから感覚的にレコードを選ぶ楽しみもあるようです。
Face Records目掛けて来店する 海外からのファン
渋谷は外国人観光客の多い街。インバウンド需要も見逃せません。
「外国人のお客さまも多いです。Face Recordsを目指して、渋谷までレコードを買いに来られます。ここ数年は、山下達郎さんや竹内まりやさんなど日本の80年代シティポップや、ジブリ作品の映画のサントラなど、ジャンル目掛けて来店、購入されていました」
渋谷の新しいスポット、宮下パーク店のオープン時も、ジャンル目当ての外国人観光客を想定し、たっぷり在庫を準備して待ち構えていたところのパンデミック。
「2年間地道に活動してきて、ようやくかなと感じています」
レコードで聴く 音楽の楽しみ方
レコードのコレクターはジャンル別に活動するものなのでしょうか?佐取さんご自身の楽しみ方を伺いました。
佐取さんはもともと、ダンスミュージックのハウスやヒップホップなど、クラブ音楽が好きだったそうですが、Face Recordsに入って変化があったそうです。
「音楽のルーツというか、歴史のようなものを意識するようになりました。たとえば、ハウスミュージックはジャズやソウルなどの音源の一部を使って制作する場合も多い。音楽はつながっています。
そういう聴き方をしていると、ジャンルの壁がなくなってきて、今はありとあらゆるジャンルを聴いています。スタッフにもそれぞれ得意なジャンルがあり、引き出しをたくさん持っていて、本当に詳しい。そういう人たちの話を聞けるのも、この仕事の醍醐味ですね」
もともと音楽に詳しい佐取さんがさらに深さを知ることになったFace Recordsの世界。
「そもそも、レコードを聴くということは、プロセスが多い。ジャケットを見て、手に取って、プレイヤーに載せて、針を置く。面倒に思うこともあるのですが、やはりデジタルとは異なる良さがあります。」
ビギナーがレコードを聴くには
レコードに興味はあっても、プレイヤーやオーディオ機器の購入は知識と価格の両面でハードルが高く感じる人も多いのではないでしょうか。
「最近はビギナー向けに、レコードを置くだけで聴ける、スピーカー内蔵のポータブルプレイヤーが1万円以下で販売されています。」
もう少し音にこだわるには・・・と聞いてみると。
「プレイヤーはテクニクスのSL-1200シリーズ、DJが使うような典型的なプレイヤーですが、丈夫なのでメンテナンスすれば中古でも長く使えます。中古なら2、3万円ぐらいです。
音響機材は本当にピンキリなので、予算に合わせて。ハイエンドの音響はまったく音が違いますが、金額が飛び上がります。
私も、今はマンションで難しいこともありますが、良い音響でレコードを聴く生活をしたいですね」
佐取さんはレコードという一生モノの趣味を手にしているひとり。そう思えてきます。
記憶に残る「音」を体験
最高級の音響でレコードを聴くと、レコードの楽しみ方がまったく変わる。ここで、FTF株式会社が運営する店舗をもうひとつ、紹介していただきました。
「銀座の東急プラザにあるSpace Is the Placeは、Face Recordsと音響や家具などのパートナー企業が作った、「レコードのある暮らし」を提案する体験型のショップです。」
音響の世界はレコードよりさらに入口が狭く、素人にはハードルが高過ぎる感じがあります。
「Space Is the Palceはオープンなスペースなので、宮下パークと同じようにふらっと立ち寄っていただき、良い音響でレコードを聴くと違いがあることを、まず知ってもらいたいです。
音が記憶に残るだけでも、違いますよね。いつか部屋で聴けたらいいなという音を、体験していただきたいです。」
Face RecordsはDJやマニアが一目置く古株のレコード専門店でありながら、佐取さんのお話を聞いていると「レコードというものにまず興味を持ってもらいたい」という思いが伝わってきます。
後半は、Face Recordsを運営するFTF株式会社の成り立ちやビジネス、今後の展望についてお伝えします。
渋谷店店長の日比さん。
「今日のおやつはアイス!」を食べ、ベースを抱いて「ポーズ!」の後に、冒頭のひとこと。
FTF株式会社
〒140-0012 東京都品川区勝島一丁目1番1号 東京SRC A館7階7-D区画
TEL: 03-6407-8541(代表)
MAIL: pr@facetofacecoltd.com
https://facetofacecoltd.com/
Face Records 渋谷店
〒150-0042 東京都渋谷区宇田川町10-2 新東京ビル
TEL:03-3462-5696 / 0120-888-378(買取専用フリーダイヤル)
https://www.facerecords.com/shop/index.php
Face Records 宮下店
〒151-0001 渋谷区神宮前6丁目20 MIYASHITA PARK 南街区3階
TEL:03-6712-5645
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GENERAL RECORD STORE
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谷井百合子(たにい・ゆりこ)
会社員からライターへ転向。腰の軽さと興味に乗っかる行動力で、ビジネストレンドやブックレビュー、食や旅にも題材を広げている。
興味のあるジャンルは、カフェ、本、料理、工芸、建築、など。渋谷界隈で出会った美味しいものや素敵なものを、テンションの上がった気持ちものせてご紹介します。