渋谷周年散歩とは
渋谷の街に誕生して周年を迎えたお店をご紹介するのが、「渋谷周年散歩」です。お店の移り変わりも早い渋谷の街で10周年、20周年と年月を重ねて行くのは容易ではありませんが、その中で記念すべき周年を迎えたお店をご紹介していきます。
真っ赤な壁紙の客室に、アンティーク調のインテリアの数々。まるで、パリ郊外のプチホテルのような雰囲気が女性たちの心をくすぐり、オープンするやあっという間に人気となったホテルがあります。
渋谷駅から徒歩5分、宮益坂上のプチホテル「サクラ・フルール青山」。今年12月1日でオープン15周年を迎えますが、女性たちを中心に変わらぬ人気を誇ります。
人気ホテルであり続ける秘密はどこにあるのか、そして、運営する「桜ホテルズ株式会社」が奥多摩で始めているという新たな展開とはーー。
10代のころはアイドルグループのメンバーだったというオーナーの小林利男さんと、コンセプトメーカー、インテリアデザイナー、代表取締役/CEOをこなす嶋田美恵子さんにお話を聞きました。
業界の常識にとらわれない真っ赤な壁紙が、女性の心をわしづかみ!
ヒカリエを抜けて歩道橋を渡ると、すぐに右手に見えてくる「サクラ・フルール青山」。
入口が印象的なので、「ああ、ここだ!」とすぐに分かりますが、この建物がサクラ・フルールになる前は、もっと目立たないビジネスホテルだったとか。そのホテルを桜ホテルズが運営することになった時、小林さんからデザインを任された嶋田さんは密かに心を決めたそうです。
「私自身、別のビジネスホテルに泊まったことがあったんですが、ビジネスホテルにあまり華やかさはないですよね。それに男の人ばかりでちょっと怖いなという印象がありました。
そこで、25〜35歳の女性をターゲットにして、女性が一人でも安心して泊まれるホテルにしたいと思いました。加えて、当時のこのあたりは暗くて人も少なかったので、もっと多くの女性が歩く場所にしたいと思いました」
2人が描いていたホテル像は、“ロンドンやパリから車で30分ぐらい離れたところにあるような、郊外の可愛いプチホテル”。このイメージを実現していくうえで、それまでホテル業界とは無縁で生きてきた嶋田さんだからこその、新鮮な感覚が奏功したといいます。
「全部で133室あったんですけど、最初は、全室同じ普通のデザインでいいと言われたんです。でも『私には、色のない世界を作ることはできません』ときっぱり言いました」
そして出来上がったものは、十数通りものデザインがあるもの。さらには、従業員の休憩室に至るまで、ドアの枠からドアの色まで、それぞれにこだわった結果、内装の資料だけで通常のホテルの何倍にもなるという、内装業者も驚くこだわりようだったと言います。
嶋田さんが特にこだわったのが、前身のビジネスホテルの担当者から「売りづらい部屋」と言われていた15室。狭いうえに、エレベーターの横にあるのでうるさい、ということを前の担当者はとてもネガティブに捉えていたそうです。
「それを聞いた時に私は、『じゃあ、ここを売りにしよう!』と思って、その15部屋の壁紙を、天井以外全部真っ赤にしてしまったんです。世の中には、きっとこういう変わったものを、いい!と言ってくれる人もいるはず!と思って」(笑)
ところが、工事中に部屋をのぞいてみたところ、あまりに真っ赤だったので、「これは大失敗」とショックを受けたとか。どうしよう、と思いつつ、若い女性を呼んで見てもらったらこう言ったそうです。
「キャーー! かわいい! アメリみたい!」
アメリとは、映画「アメリ」のことでした。
その言葉を聞いた嶋田さんは、「よし、大丈夫」と確信。真っ赤な壁紙をそのまま変えることなく工事を進めていきました。
そして2004年12月1日、サクラ・フルール青山がオープンするや、業界誌よりも先にファッション誌が取材にくるというホテル業界にとっては異例の事態に。あっという間に大人気のホテルになり、雑誌を手に「ここに泊まりたいんです!」とやってくる女性が後を絶たなかったと言います。
団体客、お子連れをお断りし続けている理由とは
さて、開業後、客室稼働率95%という驚きの数字を保っていたサクラ・フルール青山ですが、その影には、「ここだけは絶対に曲げない」という確固たる運営方針がありました。
それは、大手のリアルエージェントとは契約せず、楽天トラベルやじゃらんなどの、ネットエージェントとだけ契約したこと。そして、団体客は受けないこと。さらに、お子様連れもお断りすること。
オーナーの小林さんは言います。
「ビルが古くて壁が薄いので音が漏れやすく、団体やお子様連れは他のお客様に迷惑がかかってしまう場合もあります。もう少し壁が厚ければいいんですけどね・・・。
一般的には稼働率が下がると、じゃあ団体を受け入れようとか、お子様も受け入れようとか、方針を転換していくホテルが多いんです。でも、それだとどんどんコンセプトがずれてしまうんです。
うちは、コンセプトを変えない。そのブレない姿勢があるからこそ、成功してきていると思っています」
そんなブレない姿勢を貫いているからこそ、東日本大震災後にガクンと宿泊客が減った時も、渋谷の他のホテルがどんどん値下げしていく中で、あえて値段を下げなかったそうです。逆に、お客様が減ったその時期を利用して、客室を順番に改装。そして、改装が終わった段階で値段を下げたところ戦略が見ごとにハマり、一気に客足が戻ったと言います。
宿泊客で一番多いのは「都内に住む女性」という意外な事実
一方で、予想外だったことも。それは、利用者の多くが女性であることは狙い通りだったものの、宿泊者の中で一番多いのが、東京に住んでいる女性だったということ。それは、なぜなのでしょうか。
「嶋田とよく話しているんですけど、うちを利用してくれる女性たちは、うちをホテルだと思っていないんじゃないかなって。つまり、自分の部屋が、もう一つ渋谷にあるような感覚なんだと思います。
スケジュールを見て、この日は仕事が翌朝が早いからホテルに泊まろうとか、夜遅くなってタクシーで帰るよりはゆっくりとホテルに泊まろうとかね。」(小林)
「リピータの女性も多いです。狭いですし、ぜいたくな環境ではないですけど、気分転換になんるでしょうね。とてもうれしいことです」(嶋田)
何度でも泊まりたくなるほど、くつろげて居心地のいいホテルという証拠ですね。
さて次回は、元アイドルだった小林さんがホテルマンへと転身した経緯や、奥多摩の地で展開している新たなプロジェクトについて、詳しくお聞きしていきます。
【ホテル情報】
サクラ・フルール青山
東京都渋谷区渋谷2-14-15
03-5467-3777
http://www.sakura-hotels.com
平地紘子(ひらち・ひろこ)
シブヤ散歩新聞・副編集長。フリーライター/ヨガインストラクター。10年以上お堅い新聞記者だったのに、3年間のアメリカ生活でヨガインストラクターに転身。でもやっぱり、書くのも好き。かなり色黒なので「サーファー?」と聞かれるけれど、見かけ倒し。スッピンのまま自転車で中目黒界隈を駆け抜けているだけです。ヨガウェアで魅せる筋肉美が最近のプチ自慢。フィットネスやマッサージなど、体にいい情報をお伝えします!
yoga teacher HiRoko HiRachi