1970年の創業以来、シナリオライター養成学校としてプロの脚本家を輩出してきた「シナリオ・センター」。NHK朝の連続小説など、毎クールの連続ドラマの脚本家も映画の脚本家も、7割がシナリオ・センター出身だというから驚きです。
企業理念は、「日本中の人に、シナリオを書いてもらいたい。」
日本中の人、そして世界中の人にシナリオを書いてもらいたい。なぜなら、シナリオを書くことは、やがてこの世界を変えていくことにつながるから。
そんな風におっしゃる、シナリオ・センターの副社長である新井一樹さんにお話を伺いました。
シナリオは、物語を映像化するための表現形態
「シナリオを書くのって、そんなに難しくないんです」
シナリオとは、映画やドラマ、舞台の脚本のこと。朝ドラも大河ドラマも、最近人気の配信ドラマも、みんなシナリオありき。脚本家というプロが書いています。
「シナリオとは、物語を映像化するための表現形態です。やったことがないから難しく感じるかもしれませんが、シナリオを書くだけなら小学生からできますから」
新井さんによると、物語を文章で表現したのが小説であり、映像で表現したのが映画やテレビドラマ。物語を映像にするための設計図がシナリオなのだそうです。
作家に絶対必要な3つの眼
「シナリオを書こうとすると、例えば登場人物が3人いれば、性格とか考え方が3人それぞれ違いますよね。書き手は3人それぞれの立場で、台詞を書いたりト書を書いたりします。自分以外の人のことを考えるということは、シナリオを書くと自然とやらなきゃいけないんです。」
自分以外の人になったつもりで「考える」のですね。
「そして、登場人物が属する社会とはどういう社会なのか、それぞれの登場人物が物ごとをどう捉えるのか。人間を見る眼、社会を見る眼、物ごとを見る眼、この3つの眼がないと作家にはなれません。逆に、シナリオを書くことで作家の眼が養われます。
プロになるならないに限らず、シナリオを書くために考えることで人生の見え方が変わり、豊かな人生につながるのではないかと。」
確かに、自分以外の誰かの目で、社会や物ごとを丁寧に考えていくと、見える世界は幾通りにも違って見えてくるに違いありません。
「私の祖父であり、創業者の新井一には、戦争反対派でありながら戦争を止めることができなかったという思いがありました。日本人に、自分でものを考える力がもっとあれば、どこかおかしいと気づいただろうと。」
始まりは「一億総シナリオライター化」
創業者の新井一さんは新井さんの祖父にあたります。「シナリオ・センター」は、脚本家でありプロデューサーでもあった新井一さんが、撮影所の片隅でシナリオを教え始めたのがきっかけだそうです。自宅で始めた寺子屋式の教室から、シナリオ・センターが発足したのが1970年。以来、53年間、脚本家を養成する講座を開催し続け、プロのシナリオライターを輩出し続けてきました。
「日本中の人に、シナリオを書いてもらいたい。」というコンセプトは新井一さんの精神を受け継いでいます。
「元々は『一億総シナリオライター化』だったんです。テレビを『一億総白痴化の箱』と断じたジャーナリストの大宅壮一さんに、新井一が「作り手がいいものをつくり、観る側がいい目を持っていればバカの箱にはならない」と対抗したら、大宅さんが「新井さんは『一億総シナリオライター化』を目指しなさい」という話をされたと。
『一億総シナリオライター化』を、2010年に『一億人のシナリオ』という言い方に変え、今は『日本中の人にシナリオを書いてもらいたい。』という言葉を使っています。」
シナリオ・センターは日本随一のシナリオライター養成スクールとして、プロの脚本家を輩出、現在も700人以上の出身ライターが第一線で活躍されています。シナリオコンクールの受賞者も圧倒的にシナリオ・センター出身者が多いそうです。
日本中の人全てに、シナリオを広げたい
プロ養成校として続いてきたシナリオ・センターが新たな一歩を踏み出したのは、2010年のことでした。9・11同時多発テロやアメリカのイラク侵攻など、不穏な世の中の情勢を受けてのこと。
「どんどん変な世の中になっていく中で、自分以外の人の立場で考えるということができていないのではないかと。
『日本中の人にシナリオを書いてもらいたい。』と言いながら、これまでの中心は、プロ養成だったんです。でもシナリオを広げなきゃいけないのは、プロだけじゃないよねと。それで子供たちをはじめ、シナリオを書きたいと思っていない人にも、シナリオを広げようと。」
2010年、子供を対象にしたキッズシナリオ講座を開始する判断を下したのは、現在の代表、小林幸恵さんでした。
キッズシナリオプロジェクト「考える部屋」
最初は小学校に出向いてシナリオの書き方を教える、出前授業を始めたそうです。
「小学校の出前授業『子供向けキッズシナリオ』は、2010年以来現在も続けています。これはこれでいいのですが、1回限りで終わってしまうので、想像力を豊かにしていくところまでは難しい。なら、今まで技術を教えてきた蓄積をもとに、じっくりと子供向け講座をやってみようと、2021年に『考える部屋』という小・中学生を対象とした講座を開講しました。」
「『考える部屋』はシナリオの技術を学びながら『考えること』をやっていこうという講座です。子供向けですが、やっていることは大人向けの講座と一緒。プロの養成で結果を出してきた技術を、子供にわかるようにして伝えています」
「考える部屋」はオンラインのZoomを使っての開催。参加人数は9~10人と講師が2名。色々な地域の子供達とつながって、毎週2時間の授業を半年間行うそうです。
「考えてみると休憩も取らずに2時間、長いようですが皆んな夢中なのであっという間。集中力がすごくて、『時間だよ』と声をかけても聞こえてなかったりします。同じお題に対して、他の人が何を書いたのかみんな興味があるし、自分の作品に感想をもらえるのが嬉しいようです」
課題で身に付く、作家の眼
大人向けの講座は、半年間のシナリオ作家養成講座、2ヶ月間のシナリオ8週間講座、半年間のシナリオ通信講座基礎科の3つ。
「本気でプロを目指しているのは2割ぐらいだと思います。昔から書くのが好きという人が2割で、あとの6割は「もしかしたら私、才能あるかも」という人たち。シナリオと出会ったことで、書く楽しさとかシナリオを作っていく面白さ、みたいなところを味わってもらえれば、結果としてプロになる、ならないはどちらでもいいと考えています」
シナリオを学ぶことで、観ている映画やドラマがなぜ面白いのか、なぜ面白くないのかがわかるようにもなるとのこと。
「軽い気持ちで8週間講座を受けるだけでも、作家の眼が身につきます。毎週課題が出るので、例えば『イライラしている人』が課題だとすると、電車の中でスマホばかり見ていた人も、周囲のおじさんや女の子の様子を眺めて、翌週までずっと頭の片隅で『イライラ』を考える。それだけで日常生活を見る目が「作家の眼」に変わってきます」
「どう書くか」の答えが書いてある、「物語のつくり方」
シナリオ・センターでは何を学ぶのか?理解するためにお勧めの本が、新井さんが書いた『シナリオ・センター式 物語のつくり方』です。内容は新井一さんの著書『シナリオの基礎技術」『シナリオの技術』『シナリオ作法論集』を、今の人にもわかりやすく噛み砕いて整理した、創作術の本です。
「創作の世界にいる中で、僕は唯一自分で創作をしたいと考えたことのない人間だと思います。その僕が読んで『この本はすごい、これができたら誰でも確かにプロになれる』と思ったのが『シナリオの基礎技術」でした」
『シナリオ・センター式 物語のつくり方』では、「どう書くのか」の全体像が一冊にまとめられています。設定の考え方、登場人物の考え方、構成の考え方、など考えなきゃいけないことを章立てにしているので、全体像を見た上で、足りないところを補ったり、得意なことを伸ばしたり、という使い方ができるそう。
「創作は、『どう書くのか』と『何を書くのか』の2つの軸があって、『何を書くか』は教えることはできないから、自分で考える。それは作家の眼ですよね。でも『どう書くか』の答えはもうあります。表現する技術はあるから、使ってくださいねと思っています」
プロデューサーや脚本家のプロの人たちだけではなく、創作にちょっと悩んでいる人や、伸び悩んでいる人、やってみたいんだけど何から始めたらいいかわからないっていう人たちにも読んでもらいたいそうです。
シナリオを書くと世界が変わる。やがて、世界を変える。
最後に、今後の展望を伺いました。
「僕の考えですが、『日本中の人にシナリオを』から発展、これからは『世界中の人にシナリオを』だと思っています。
今、世界全体がいい方向に向かっているとは思えません。想像力が足りないのは、世界中どこに行ってもそうですよね。自分達がよければそれでいいみたいな。
シナリオで世界は変わるかもしれない。まあ、そんなことはないかもしれないけど。人間はちゃんと考えることが大切で、シナリオは考える装置として本当にすごいんです。」
そんなことはある。シナリオはやがて、世界を変える。新井さんは確信していると感じます。
シナリオを書いてみたい。作家の眼を養いたい。
興味を持った方はぜひ、半年間の作家養成講座が10月11日から、シナリオ8週間講座は11月4日から開講するそうです。
シナリオ・センターがあるのは、表参道から徒歩5分、北青山の一等地。受講生の方々は、授業の前後に青山や原宿でお茶したり買い物をしたり、楽しんでいるそうです。シナリオ・センターで学びながら、渋谷界隈の散歩を楽しんでみてくださいね。
シナリオ・センター
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谷井百合子(たにい・ゆりこ)
会社員からライターへ転向。腰の軽さと興味に乗っかる行動力で、ビジネストレンドやブックレビュー、食や旅にも題材を広げている。
興味のあるジャンルは、カフェ、本、料理、工芸、建築、など。渋谷界隈で出会った美味しいものや素敵なものを、テンションの上がった気持ちものせてご紹介します。