神泉から徒歩3分、裏渋谷通りからさらに1本入った路地にあるBISTRO Partager。
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そのシチュエーションはまさに“隠れ家”。常連さんにとっては、あまり多くの人に知ってほしくはなく、いつきてもゆっくりと過ごせる自分だけのお店にしておきたい、と思いたくなるようなお店です。
「有り難いことにそう言ってくださる方もいらっしゃいます。人に教えたくない、と。料理人としてはすごく嬉しい賛辞ですが、オーナーという立場からすると、どんどん人に言ってくれないかなー、とも思いますね(笑)」
そう笑うオーナーの野本将吾さん。オーナーであり、シェフであり、そしてソムリエでもあります。
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「ワインについては、この料理にはこのワイン、というマリアージュは強制しないです。最初は軽めの白じゃなくてしっかりとした白でもいいと思いますし、お肉料理でも白を飲みたい方もいらっしゃいます。料理と同じで、飲みたいものを、飲みたいタイミングで飲んで頂ければいいというスタイルなので、聞いて頂ければもちろん提案はしますが、基本的にはお客様に決めていただいています」
お客様が飲みたいものを、飲みたいだけ、飲みたいタイミングで飲んでほしいーー。
だからこそ、グラスワインの種類も、泡2種類、白5種類、赤5種類、ロゼ、オレンジ と常に14、15種類も用意されているのです。
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産地もフランスが主軸でありながら、スペイン、イタリア、日本など、野本さん自身が飲んで「美味しい」「好きだな」と感じたワインが並んでいます。
「一番高い景色を見て来い」が、父から息子へのアドバイスだった
さて、<前編>でも少し触れましたが、野本さんは15、16年間、グランメゾンと呼ばれるフランス料理の最高級店で働いてきました。その野本さんがビストロという形態にこだわってお店をオープンした理由について、詳しくお聞きしようと思います。
そもそも、野本さんが料理の道に進もうと思った原点は、実家にありました。70歳を過ぎた今でも現役で包丁を握るお父さんがくずし割烹懐石のお店を営んでいたので、幼い頃から自然と「料理人になりたい」という気持ちを抱いていたそうです。
お父さんのお店は、丁寧にしっかりと作り込まれた和食のお店。一方、高校生になって初めて「街のスパゲティ屋さんのようなお店」でアルバイトした野本さんは、そのお店の客単価が1,000〜2,000円であることを知りました。
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「その時に、夕食に3,000円、4,000円でしか使えないお客様は、1万円の食事はなかなかできない。逆に、実家のお店で食事ができるようなお客様は、3,000円、4,000円の食事もできるなと思ったんです。なので私は、2,000円、3,000円でも美味しいご飯を提供できるスパゲティ屋さんのように、洋食をやろうと決めました」
そんな野本さんの思いを聞いたお父さんは、「一番高い景色を見て来い」と言ったそうです。
それは、客単価が1万、2万円するような和食のお店と、街中の和食居酒屋では、使える素材が違うから。それは洋食の世界でも同じです。お父さんは
『修行と呼ばれる若い時から低単価のお店で仕事をしていると、使える食材と自分の料理の幅が狭くなる。一番最初は、一番高いところから仕事を覚えて、高い仕事をして、どんどん高い知識を覚えられれば、客単価の低い仕事もできるから』
とアドバイスしてくれたのでした。
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そこで、フランス料理の道へと進んだ野本さん。15、16年の間、グランメゾンと呼ばれる、フランス料理界の“一番高い景色”の中で経験を積みました。しかしその間、もともと野本さんが抱いていた「コース料理のお店ではなく、気軽に食べられるお店をやりたい」という思いは、一度もブレることがなかったと言います。
「グランメゾンでの、細やかさや繊細さが求められる料理をすることは大好きだと自信を持って言えます。でも、個人的には、高級店の雰囲気があまり好きではなかったんですよね。ドレスコードがあって、テーブルマナーも求められて、慣れている人はいいのですが、慣れていない人が萎縮しながら食べるような雰囲気自体が、ですね。だからビストロをやりたいという思いがブレることはありませんでした」
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グランメゾンで知識と経験、料理法と扱う食材の幅を身につけた野本さんはその後、新しくできたお店でシェフを6年ほど経験。そして、満を辞して2017年4月に、「ビストロ パルタジェ」をオープンしたのでした。
「楽しい」という枠の中に「美味しい」がある
前編でも紹介しましたが、お店の至るところに豚をはじめ、牛や鶏などの飾り物があります。
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実はこれらの飾り物一つ一つにも、野本さんの思いが込められているのです。
「お肉を食べるような空気感もそうなんですが、お客様同士の会話のネタになれば、ということで、お肉のいろんな部位がわかるようなイラストとか、細やかな飾り物を置いています」
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「20代のカップルとか、食事中に会話がなくなったりする時もあったりするんですよね。そんな時に、『あんなところに豚があるよ!』とか、会話が生まれるきっかけになると意外と楽しめると思っています。カトラリーのレストも、動物の種類をあえて揃えないでおいています。そうすると、女の子が『鹿だ!かわいい!』と言ったら、男性が『俺の犬なんだけど』とそこから話が弾んだりするんです。
もともと“楽しい”という枠の中に“美味しい”があるので、結局、楽しくないとどんなに美味しい料理を食べても美味しくないんです。だから極力、お店に来て楽しんでいただけることを目指しています」
同じ料理でも、気の置けない人と一緒に楽しく食べている時と、仕事の取引先の人と食事をしている時、そして、パートナーとケンカしながら食べている時とでは、まったく味わいが変わってくること、すごくよくわかります。
そうそう、店内の壁に飾ってあるワインの空きボトルは、すべてが動物の絵柄のついたボトルなんですって!
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ワインボトルのラベルに、こんなにも動物の絵柄があるとは知りませんでした! お店に行かれた時には、ぜひ一つ一つ、じっくり見てみて下さいね。
せっかく独立するなら、日本で一番厳しそうな場所で勝負してみたい
気づけば、あっという間に時間が過ぎていた楽しい取材。最後に、神泉というエリアにお店を出した理由を聞いてみました。
「本当にたまたまのご縁です。来てみたら、渋谷駅からすごく近い場所にありながら、食事を楽しむ年齢層の方向けの飲食店がたくさんあって、面白そうな街だなと。
あと、せっかく独立するんだったら、日本で一番厳しそうな場所でやってやろうという思いもありましたね。この地域で一番になったら、そこそこ日本で1番に近いんじゃないかなと思っています」
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食べたいものを美味しく食べ、飲みたいものを美味しく飲み、肩の力を抜いて楽しく過ごせるビストロとして、ぜひ、日本一を目指して神泉の地で頑張ってほしいと思います!!!
【店舗情報】
BISTRO Partager(ビストロ パルタジェ)
東京都渋谷区神泉町7-14 江澤ビル1F
TEL/03-6416-1131
定休日/日曜日
営業時間/【月〜金】17:00~24:00 (LO23:00)
【土曜日、祝日】17:00~23:00 (LO22:00)
Instagram:https://www.instagram.com/bistro_partager/
Facebook:https://www.facebook.com/Bistro-Partager-ビストロ-パルタジェ-448528192153557/
予約サイト:https://select-type.com/rsv/?id=uqR8zASwRqY&c_id=27611
平地紘子(ひらち・ひろこ)
シブヤ散歩新聞・副編集長。フリーライター/ヨガインストラクター。10年以上お堅い新聞記者だったのに、3年間のアメリカ生活でヨガインストラクターに転身。でもやっぱり、書くのも好き。かなり色黒なので「サーファー?」と聞かれるけれど、見かけ倒し。スッピンのまま自転車で中目黒界隈を駆け抜けているだけです。ヨガウェアで魅せる筋肉美が最近のプチ自慢。フィットネスやマッサージなど、体にいい情報をお伝えします!
yoga teacher HiRoko HiRachi