Webで注文すると、ワンクリックで翌日には届く本。置き場所を気にせず、何冊でも購入できる電子書籍。簡単でスピーディかつ大量に入手が可能となった情報源としての本に対し、アーティストの世界観をじっくり楽しむ本があります。
今回お伝えするのは、写真集や現代芸術の作品集などアートブックの楽しみ方について。30分の滞在でクールになれるブックショップを紹介します。
出版社の世界観を見せるブックショップ「POST」
POSTは、恵比寿にあるアートブック専門の本屋さんです。
ホームページによれば、
「POSTは定期的に扱っている本が全て入れ代わる新しいブックショップです。出版社という括りで本を特集し、普段書店では見えにくい『出版社』の世界観も感じながら本を見てもらえるスペースです。」
出版社の世界観や出版社の括りとはどういうことなのか?興味が湧いて、恵比寿にある店舗に行ってみました。
居心地の良い空間に並ぶ、個性豊かなブックデザインの洋書
恵比寿駅から徒歩5分。ガラス張りの壁にはPOSTの赤いロゴ。入口に置かれた自転車にも同じ、赤いロゴが描かれています。白い扉を開けて入ってみると、床はフローリング、白木の本棚には表紙を見せるディスプレイで本が並んでいます。
温かみのある静かな空間。そんな印象です。
POSTにある本は全て洋書。写真集や現代美術、デザインなど幅広いアートブックを海外から取り寄せています。
「出版社という括り」の出版社とは、編集やブックデザイン、装丁などを手掛け、アーティストと密に協力して本を作り上げる、主にドイツやオランダなど海外の出版社を指しているとのこと。
店内に置かれたアートブックは、ジャンルも様々ですが、本そのものの大きさや厚さ、デザインの個性が際立っています。
「世界一美しい本を作る」ドイツの出版社 STEIDL(シュタイデル)
アートブックを開く時、装丁をじっくり見ることはあっても、出版社を意識したことはありませんでした。POSTの本棚に並ぶ本の背表紙や、平積みの本を手に取り探してみると、出版社の名前が見えてきます。
特に、STEIDLという出版社が繰り返し目に入ってきました。
STEIDLはドイツを拠点とする出版社です。編集からデザイン、印刷、製本、流通まで、全てを一貫して自社で手がけているのが特徴で、総合的な本作りをする出版社は世界でも珍しい存在とのこと。
世界的に有名なファッションデザイナーや写真家、ノーベル賞作家をクライアントに持つSTEIDL。その創立者、ゲルハルト・シュタイデルが本作りにかける情熱は、ドキュメンタリー映画「世界一美しい本を作る男」で観ることができます。
POSTは、STEIDL社のメインラインナップが常に並ぶ、世界に20ケ所あるオフィシャルブックショップの一つだそうです。
最も気に入ったSTEIDLの本がこちら。
地図が描かれた布張りのケースに、同じく触り心地のよい布張りの、厚さの異なる本が2冊収まっている、オーストラリアのウルルとカタ・ジュタの写真集です。
布の触感や、装丁の文字の配置。考え抜かれた完成品の美しさを感じます。
出版社は他にも、ドイツやオランダ、イギリスなど10社以上取り扱いがあり、POSTの店頭では数百冊の本を実際に手に取って見ることができます。
「出版社」を特集する際は、現地の出版社とコンタクトして選書や解説なども含め準備を進める、大掛かりなイベントとなるそうです。写真は、2022年にEdition Patrick Frey社を特集した時のポスターです。出版社の紹介と、裏面には一冊一冊の解説がびっしり書かれています。
現在、Edition Patrick Freyの本の在庫は数少なく、「定期的に扱っている本が入れ替わる」状態をまさに示しています。
直感で手に取り、開いて眺める アートブックの楽しみ方
店内では、ジャンルを問わず気になる本を次々手に取ってみました。表紙のデザインで選んで開いてみると、ショッキングな写真にびっくりすることもしばしば。ただ、普段自分が目にすることのないデザインや写真が脳みそに飛び込んでくる感じは、喜ばしい刺激です。
記憶として残すとか、知識として使うというよりも、感性のどこかに響いた刺激が蓄積されていくような、嬉しい感覚。
これまであまり意識したことがありませんでしたが、今回手にした本の紙質はつるつるではなく、ざらっとした感触のものが多かったような気がします。
アートブックというものは、写真やアートの内容だけではなく、装丁やデザイン、手に取った時の感触や重さ、開いた時の匂いも含め、「本」がアーティストが表現する世界を伝えてくれているのだなと感じました。
装丁も、とにかく洗練されています。気に入った一冊を連れて帰り、インテリアとして部屋に置くのもいいですし、プレゼントとして、贈る相手を思い浮かべながらこれという一冊を時間をかけて探してみるのもよいかもしれません。
店舗にある本はオンラインでも販売されていて、解説があるものがほとんど。お勧めしたい楽しみ方は、直感で気になる本を手に取ったら、パラパラとめくり見たり読んだりしてみる。内容が知りたくなったら、オンラインで検索して解説を読む。なるほどと頭に入ります。
インスピレーションを求めて訪れるクリエイター
店の奥のスペースでは、ブックローンチや出版に合わせた展示企画を開催しているそう。訪問した際には、美術家・磯谷博史さんの展覧会が開催されていました。
アートブックの閲覧や展覧会など、クリエイターとしてのインスピレーションを求めてPOSTを訪れる、アーティストやデザイナーの常連も多いそうです。
私のような素人でも、本の表紙を眺めているだけで、美しいものとコンタクトしていることはわかります。
世界の秘境、建造物、ファッション、インテリア、現代美術にデザインアート。何を探すわけでもなく、神経衰弱のように本を次々と開いていくと、思考がだんだんと薄れ、静かに耳を澄ますような感覚が訪れます。
心が研ぎ澄まされる感覚、ぜひPOSTを訪れて味わってみてくださいね。
POST (limArt Co., ltd)
150-0022 東京都渋谷区恵比寿南2-10-3
tel: 03-3713-8670営業時間:11:00 – 19:00
定休日:月曜日
谷井百合子(たにい・ゆりこ)
会社員からライターへ転向。腰の軽さと興味に乗っかる行動力で、ビジネストレンドやブックレビュー、食や旅にも題材を広げている。
興味のあるジャンルは、カフェ、本、料理、工芸、建築、など。渋谷界隈で出会った美味しいものや素敵なものを、テンションの上がった気持ちものせてご紹介します。