アーティストをオンラインで招き、アートパフォーマンスを体験できる新しいライブ「leap2live」のパフォーマンスが1月17日夜、オンラインで配信されました。山崎阿弥+マイケル・スミス-ウェルチュ+カール・ストーンによる、声と音、光と映像のパフォーマンスです。チケットを購入した人たちはそれぞれの場所で、PCなどの端末を通して、日常と切り離されたその世界へと入っていきました。
実はこのライブ、通常の「leap2live」とはちょっと違いました。
というのも、「leap2live」は「Innovation for new normal」という渋谷区が推進するスタートアップとの連携プログラムに採択され、その第一弾の「実証事業」として行われたのです。
なにを実証する事業なのかは後で詳しくお伝えしますが、今回の試みのユニークさはパフォーマンスを行った場所にあります。
恵比寿駅前にある「コンツェ恵比寿」からの配信でしたが
会場となったのは、レストランが退去した後の場所。
座席やテーブルはもちろんのこと、バーカウンターにはまだ、コーヒーマシンや瓶、グラスなども残っていました。
なぜ、退去後のレストランを会場にして配信をしているのか、そもそも、渋谷区との実証事業って何を実証するの? というお話を、<前編>に引き続き、「leap2live」を立ち上げた起業家の若宮和男さんに聞かせていただきました。
密から疎へ 離れていても生み出され、実現できるものがある
ーー渋谷区との実証事業は、渋谷区が募集した「新型コロナウイルスによる緊急事態宣言解除後に迎えた“ニューノーマル”での社会的な課題を解決する新しいテクノロジー、ソリューション」に、「leap2live」が応募したことがきっかけだったそうですね。
若宮さん:はい。ニューノーマルとは、密から疎の方向へと向かっていく「開疎化」(*) だとも言われます。「leap2live」がやろうとしていることは、まさにそれに叶っていると思ったんです。これまでは1箇所に人が集まって演劇やパフォーマンスを見るからこそ生まれるものがある、と信じられていたけれど、これからは離れたところでも実現できる新しい価値が求められるようになるのでは、と。(*ヤフー株式会社 CSO (Chief Strategy Officer)安宅和人氏の提唱する概念)
そして、コロナ禍は特にパフォーマンスアートの人たちに大きな影響を与えています。その中で立ち上げた「leap2live」はまさにニューノーマルなパフォーマンス形式としてシナジーがあると思って応募しました。
ーー応募の段階から、今回使った退去後のレストランなど、普段はパフォーマンスの場として使わない場所を利用することも考えていましたか。
若宮さん:渋谷区と何ができるかな、と考えた時に、場所を掛け算するのは自然に出てきた考えです。ただ、ライブハウスなど既存の施設を利用するだけでは新しくないので、「日ごろアートパフォーマンスには使っていない場所で何かできませんか」という方向で話しをしていきました。
最初は、普通は人が入れないような場所、例えば渋谷駅周辺の再開発で工事中の工事現場とか、東急東横店の真下にある渋谷川に降りてみたらどうかとか考えたんですけど消防法の制約などもありなかなか難しくて。結果的に、当初想定していたよりはマイルドな場所になったと思います。
場所や建物に新たな表情を見つけ、活用する
ーー普段使わないような場所でアートパフォーマンスをすることで、何を実証しようとしているのでしょうか。
若宮さん:緊急事態宣言で店を開けることができない飲食店だったり、テナントが撤退したビルの空室、または人口が減って増えている地方の空き家など、日本には“箱”が余りはじめています。僕はもともと建築の仕事をしていたのですが、その頃に日本は“箱”をどんどんつくっていました。でも、これからはつくるだけでなくそれをどう使うかというフェーズに入っていき、新しい利用シーンを生み出したり意味付けをしたりすることが必要になってくると考えています。
今回使ったコンツェ恵比寿の場所も、もともとはレストランだったのでこんな風に使われたことはなかったと思うんです。実際にやってみると1階と2階が吹き抜けになっているので、とても面白い表情を見ることができました。
今回の実証事業をきっかけに、建物や場所にも新しい役を与えるというか、今までは見えていなかった新しい表情を渋谷区と「leap2live」との掛け算で実験しながら生み出していけたらいいな、と思っています。
ーー空き店舗や、営業してない時間帯の店舗などを、これまでとは違う形で有効活用していくということですね。
若宮さん:この実証事業で可能性を感じてもらえることができたなら、今お店を閉めている人たちがオンラインパフォーマンスを主催して少しでも収益を上げるとか、お得意様向けにいつもとは違うお店の表情を見せる特別な機会にするとか、そんな活用が進んでいけばいいなと思っています。遊休資産をうまく活用することができれば、海外向けに場所をアピールすることもできるかもしれないですよね。
オンラインでも、アーティストのパフォーマンスには対価性がある
ーー今回、渋谷区との実証事業でもチケットをあえて無料にしなかったのは、きっと意味があるのですよね。
若宮さん:今、パフォーマンスに限らず「オンラインだと無料でしょ」という風潮が広がっていると思います。でも、オンラインであったとしてもアーティストのパフォーマンスには対価性があります。価格の下落を止めなければいけない、という思いがあるので、そこは大事にしているところです。
同時に、オンラインであってもリアルに劣らない体験ができる、または別の価値ある体験ができるのであれば、お金を払ってでも見たい、参加したい、となると思うんです。実験によって、オンラインだからこその価値を作っていかなければならない、という僕たちの意思表明でもあります。
ーー実証事業とは別に、「leap2live」という試みはこれからも継続してやっていきますか。
若宮さん:最初に始めた時は、純粋に表現の場がないアーティストのための場でしたが、やっていく中でリアルな場所とは違う可能性をアーティストの方々も感じていました。なので、昨年緊急事態宣言が解除された後もオンラインだからこそできるパフォーマンスの実験の場として続けてきました。
ただ、未来永劫必要かというと、一定の役割を追えたら解散するのもありかな、とは思っています。最初はアーティストと観客をつなぐ場を誰かが作らないとマッチングできないだろうということでやってきましたが、「leap2live」の事例を踏まえて、アーティストの方々が自分でそれをできるようになれば、「leap2live」はその時、役割を終えたね、ということになるんだと思っています。
展示されている車両の中が、パフォーマンスの舞台に
1月31日、2回目の実証事業は、川崎市にある東急電鉄の「電車とバスの博物館」を舞台に行われました。
博物館に展示されている車両の中などから、演劇家の藤原佳奈さん、佐藤蕗子さん、李そじんさん、南川朱生さんによるアートパフォーマンスが配信されました。
日中は家族連れなどでにぎわっている場所が、そのままパフォーマンスの舞台になるという斬新な試み。
この建物はこういう場所、という既成概念を崩してみると、若宮さんの言葉にあったように、建物の新しい表情がどんどん引き出されてくることを実感しました。
残念ながら、2月に予定されていた3回目、4回目のイベントは新型コロナによる緊急事態宣言のため中止になってしまいましたが、「leap2live」と渋谷区との実証事業から、使っていない空間や場所の新たな活用の仕方が生まれ、思ってもいなかった可能性が広がっていくことを楽しみにしています!
そして、コロナ禍でも安心できる場所でアート体験を楽しめる「leap2live」をたくさんの人に知ってもらい、アーティストの活躍の場が広がっていきますように!
【leap2live】
https://leap2live.stores.jp
平地紘子(ひらち・ひろこ)
シブヤ散歩新聞・副編集長。フリーライター/ヨガインストラクター。10年以上お堅い新聞記者だったのに、3年間のアメリカ生活でヨガインストラクターに転身。でもやっぱり、書くのも好き。かなり色黒なので「サーファー?」と聞かれるけれど、見かけ倒し。スッピンのまま自転車で中目黒界隈を駆け抜けているだけです。ヨガウェアで魅せる筋肉美が最近のプチ自慢。フィットネスやマッサージなど、体にいい情報をお伝えします!
yoga teacher HiRoko HiRachi