スクランブル交差点に立てば誰でもわかるIKEAのビル。その地下で静かにたたずむ渋谷食堂ヴェントゥーノ トーキョーは昨年8月、リニューアルオープンしました。20年続いたイタリアンレストランから、お昼は現代版の洋食、夜はカジュアルフレンチのお店にガラリと様変わり。
「ちゃんとしたものを食べていると、体の調子は良くなりますからね」
お話を伺った、支配人の松嶋さんの言葉です。渋谷の喧騒真っただ中で聞くのは少し意外な印象ですが、ヴェントゥーノ トーキョーの進化をよく表しているように思うのです。
ランチ訪問、目移り必至の洋食メニュー
松嶋さんのお話を伺う前に、「現代版洋食」が気になってランチタイムにお邪魔しました。
センター街からIKEAの前に立ち、地下に降ります。
ランチメニューは、デミグラスソースやマスタードクリームソースなど、ソースが豊富なハンバーグプレートがメインです。ほかには月替わりのカレーやナポリタン、ポークジンジャーやチキンカツ、なるほど洋食のメニューです。
エビフライもオムハヤシもハンバーグも、全部のった「大人のお子さまランチ」は土日祝日限定。残念。
オニオンソースのハンバーグを選びました。ハンバーグプレートは、ハンバーグにサラダとご飯が青いお皿に載って登場。
スタイリッシュな見た目に気分が上がります。食べてみると、柔らかなハンバーグはジューシーでやさしい味わい。サラダは元気な葉っぱに人参、トマト、ドレッシングの酸味もちょうどよく、ポテトサラダもなめらかです。オニオンソースの旨みがご飯によく合い、白いご飯の最後の一粒まできっちりいただきました。
渋谷で食べるハンバーグであれば、チーズや黒胡椒たっぷり、若者のお腹も大満足のがっつりタイプ、かと思いきや、実際はその対極。食べた後に居ずまい正して「ごちそうさまでした」と手を合わせたくなるような、落ち着きのあるお味。
リニューアル前はパスタやピザが人気のイタリアンだったはず。ちょっと意外な趣に、俄然興味が湧きました。
「渋谷食堂」から始まった、長い歴史
ヴェントゥーノ トーキョーの前身は、大正時代に始まり忠犬ハチ公も通ったという洋食の店「渋谷食堂」。昭和の後半には万葉会舘として引き継がれました。少し大人の方であれば、「万葉会舘」とビルに並んだ4文字の記憶があるかもしれません。
平成に入ると改築されて今のビルの姿となり、ヴェントゥーノ トーキョーが生まれました。以来、イタリアンレストランとして名を馳せてきた20年、今のように白を基調とした、明るくモダンな改装でリニューアルしたのは2018年のこと。長い歴史と伝統を持つお店なのです。
昨年2021年8月のリニューアルでは、どう進化を遂げたのでしょうか?
技術と情熱が美味しさをつくる、フレンチシェフの本領
「今回のリニューアルは、ランチは現代版の洋食屋さん、夜はカジュアルなフレンチビストロに転向、完全な業態変更となります。」松嶋さんは仰います。
ヴェントゥーノ トーキョーのリニューアルを一手に受け持つ松嶋さんは、渋谷という街での戦略を立て、新しい料理人の方々を迎え入れました。
「シェフは、フランス料理のシェフが2名います。星付きのフレンチレストランや、本場フランスで勉強し日本の数々の有名店で腕を奮ってきての転身です。一流のフランス料理の技術を持ちながら、ここではお客さまに気軽に楽しんでもらえる料理を目指している、というところですね。」
ランチのハンバーグは手ごねで、注文を受けてから焼くそう。
「カレーも、シェフが炒め玉ねぎから始め、ルーも全て手づくりです。市販のカレーを使うなど一切ありません。野菜は群馬の無農薬野菜を使っていて、ドレッシングも手づくりです。」
「ポークジンジャーはマンゴーのピューレに一晩漬けて調理するので、ぶ厚くても中が柔らかいです。チキンカツもこんなに大きい。下ごしらえをしっかりしています。」
フレンチレストランで腕を奮っていたシェフは、新しい美味しさにチャレンジする探求心もお持ちのよう。
「こだわりでいうと、調味料。化学調味料をなるべく使わず、ソースやドレッシングも手づくり。さらには、野菜の殻を、玉ねぎや人参やジャガイモの皮やレタスの外側などたくさん出るのですが、乾燥させて独自のスパイスを作っています。また、同じように野菜の細かい殻たちをセラーで発酵させ、酸味のある発酵調味料をつくったりも。カレーにかけたり、ビネガーのように酸味を足すために使ったりしています。」
美味しさのためなら手間ひまを惜しまない。あのガラスの向こうのキッチンでスタッフの方々が料理を楽しんでいる様子がうかがえます。セラーで野菜たちが発酵して調味料となり、じっと出番を待っていると思うと、ウキウキしてきます。
ランチのお話を伺うだけで、心と体が喜ぶ美味しい料理への情熱が伝わってきました。
充実したランチメニューは、近辺でお仕事をされている方々にとってありがたい存在に違いありません。
この2年、渋谷を訪れる人たちの変化
リニューアルの時期を挟んだ2年のあいだ、新型コロナウィルスの影響で外出自粛が推奨されてきましたが、ヴェントゥーノを訪れる人たちにも影響はあったのでしょうか?
「渋谷区はIT系ベンチャー企業を積極的に誘致していたのですが、新型コロナの感染拡大に伴い撤退が相次ぎました。働き方も変わり、リモートで仕事ができるので、出勤は週2-3回が当たり前。渋谷に来る人の数自体が減っています。以前はインバウンド需要で多かった外国人観光客のお客さまも、全然見えません。」
若者の街である渋谷からIT系の企業で働く大人がごっそりいなくなった痛手は大きく、客数も大幅に減っているとのこと。
ともあれ、時代の流れを見据えて自らを変え、勢いに乗っている企業、飲食店があるのもまた事実。
新しく生まれ変わったヴェントゥーノ トーキョーで、こだわりの美味しさをいただけるのはランチだけではありません。後編は夜の様子をお伝えします。お昼の様子とまた少し違ったヴェントゥーノの顔をお見せしますよ!
【店舗情報】
渋谷食堂 Ventuno Tokyo(ヴェントゥーノ トーキョー)
東京都渋谷区宇田川町24-1 高木ビルB1F
JR渋谷駅1分 渋谷センター街入ってすぐ IKEAのビルの地下1階
★ 裏手の西武側にも入口あり
03-3477-1199
営業時間:月~日、祝日、祝前日:
11:30~16:00 (料理L.O. 15:30 ドリンクL.O. 16:00)
17:00~22:00 (料理L.O. 21:00 ドリンクL.O. 21:00)
https://ventuno-tokyo.owst.jp
谷井百合子(たにい・ゆりこ)
会社員からライターへ転向。腰の軽さと興味に乗っかる行動力で、ビジネストレンドやブックレビュー、食や旅にも題材を広げている。
興味のあるジャンルは、カフェ、本、料理、工芸、建築、など。渋谷界隈で出会った美味しいものや素敵なものを、テンションが上がった気持ちものせてご紹介します。