渋谷レジェンド散歩とは
渋谷の街で、数十年。人々に愛され続けた歴史を誇るお店や会社をご紹介するのが、「渋谷レジェンド散歩」です。渋谷といえば「若者の街」といわれますが、実は、長きにわたって活躍している人や商品、サービスがたくさんあります。そんな渋谷の意外性ある魅力をお届けしていきます。
センター街の真ん中にありながら、大人が静かに憩いのひとときを過ごせる場所として、知る人ぞ知る存在の「銀亭Cafe&Bar」。コーヒーは置かずに8種類の日本茶を提供する、ランチは1種類のみ等、独特のこだわりについて伺った前編に続き、後編では銀亭の歴史やこれからについて、店長の本田さんにお話を伺いました。
渋谷に集う人たちにおいしいものを提供し続けてきた
銀亭の前身となる割烹料理店が渋谷の地にお店を開いたのは、昭和19年のこと。宇田川町は、日本料理屋や寿司屋などが軒を並べる大人の街でした。
当時の日本は太平洋戦争の真っ只中。昭和20年の山手大空襲では宇田川町近辺も甚大な被害を受けました。
やがて、戦後の復興〜高度経済成長期に合わせるように、「銀亭」もお店の形を少しずつ変えていきます。
「ぼくの子供の頃は、割烹の隣で別店舗をやっていたんですよ」と本田さん。
「上がおでんで、下が串カツ屋で。そのあと焼き鳥屋を始めたら、これが大当たりして」。
渋谷に集まる人たちがどんどん増えていく中、「街に集まる人に喜ばれるものを提供したい」と工夫をこらしていったのであろう様子がうかがえます。
木造だった店舗が地下1階、地上3階建てのビルに生まれ変わったのが昭和61年。バブル期とあって近隣企業の接待での利用も多く、大広間は連日芸妓さんの奏でる音曲が響いていたそうです。
当時のパンフレットを見せていただきました。
「三味線や太鼓のできるお姉さんたちがいっぱいいて、優雅な大人の社交の場という感じでしたね」と、本田さんは当時を振り返ります。
いつもそこにある空間、いつもそこにいる人
今の形になったのは15年前のこと。割烹を閉めて貸しビルとなっていた「銀亭」ですが、貸していなかった地下の板場を改装し、
「母が『小さいお店をやってみたいわ』って言い出して、ぼくの妻と母とで甘味を出す店を始めたんです。」
その後ホテルマンだった本田さんが合流してバーを手がけるようになり、今の「銀亭Cafe&Bar」の形になりました。
割烹料理店だった頃からお店をよくご存知の常連さんが、ちょうどいらしていました。
毎週お稽古事の帰りにこちらへ寄り、食事をするのがお決まりなのだそうです。銀亭の良さを伺ってみると、「何より、この人(本田さん)がいいのよね。」という答えが返ってきました。お店の静けさや落ち着いた雰囲気、変わらぬ味の安心感と共に、飄々とした本田さんのお人柄に惹かれる常連さんも多そうです。
変わらないことを大切にしたい
渋谷の街と共に育ち、街の変貌を見続けてきた本田さん。
「この辺りも今でいうと横丁みたいな感じだったんですよね。同級生のクリーニング屋があったり、八百屋があったり。でも、大きいビルがどんどん建ち始めて、みんな立ち退いていっちゃった」
それでも今も何人かここに住んでいる仲間もいて、店に集まってくるんですよ、と笑います。
「この店で新しいことをやろうとか、そういうことは思っていません。お昼はお弁当とお茶、あんみつとおしるこ、夜は簡単なお惣菜とお酒を出して。それがいいんだって来てくれるお客さんの顔を見るのが、いちばん嬉しいですね」
「常連さんが多い」「オトナ限定」などと聞くと、もしかするとちょっとだけ敷居が高い感じがするかもしれません。しかし、銀亭の雰囲気は初めて訪問したわたしにも、とても居心地のよいものでした。過剰さとは無縁のシンプルなサービスと、ちょうどよく放っておいてくれそうな雰囲気は本田さんご自身の雰囲気とも通じるように思えます。
人混みに疲れた時、ひとりで静かに過ごしたい時にぜひ一度立ち寄ってみてほしい、そんなお店です。
【店舗情報】
銀亭Cafe&Bar
東京都渋谷区宇田川町24-8
TEL/03-3477-2655
営業時間/(カフェ・ランチ)11:30~18:00(バー)18:00~19:00
定休日/(カフェ・ランチ)日曜日(バー)日曜日・祝日
八田吏(はった・つかさ)
ライター。
NPO法人で、産後の社会問題に関する調査研究に携わる。個人活動として短歌の会を隔月で開催。自宅から一番近い繁華街が渋谷なので、映画に行くのも友達とのお茶も、本や洋服などの買い物も、だいたい渋谷区内で完結しています。