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CULTURE

シブヤまちづくり散歩No.6 渋谷区まちづくりマスタ―プラン担当課長インタビュ―ー渋谷区の歴史ー後編

シブヤまちづくり散歩とは
未来のシブヤはどんな街? 渋谷区では、様々な社会状況の変化や、技術革新を踏まえた上で、「渋谷区基本構想」をまちづくりの視点から実現化する「渋谷区まちづくりマスタープラン」(以下「渋谷区まちマスプラン」)の策定が進んでいます。2017年9月に始まった「渋谷区まちマスプラン」をはじめ、シブヤで行われる様々なまちづくりの取り組みを追いかけます。

前編に引き続き、「渋谷区まちマスプラン」の担当者、渋谷区都市整備部、森田一央さんのインタビューです。現在、まちマスプラン担当者の職務に邁進されている森田さんですが、今までどのようなお仕事をされてきたのでしょうか?

シブヤまちづくり散歩No.3 渋谷区まちづくりマスタ―プラン担当課長インタビュ―ー渋谷区の歴史ー前編

まちマスプラン担当者の“歴史”

森田さんが渋谷区役所に入庁されたのは1994年。最初に配属されたのは、土木部管理課自転車対策係という部署だったそうです。そこで、駅前の不法駐輪の解決に取り組んでいたとのこと。実際に駅前で自転車の撤去作業も行なっていたそう。当時、恵比寿駅周辺の再開発が進んでいましたが、恵比寿駅前の駐輪場設置やその管理にも携わっていたそうです。

IMG_20180830_144756現在の恵比寿駅ビルのようす

1994年10月に「恵比寿ガーデンプレイス」がオープンしました。集合住宅、オフィス・デパート・飲食店・ホテルなどの商業施設、映画館や美術館といった文化施設などによる複合的なエリアで、1つの小さな街と言っても過言ではありません。1996年3月に埼京線が恵比寿駅まで延長されました。そして1997年10月には恵比寿の駅ビル「アトレ恵比寿」が誕生します。また、渋谷橋北側にある「プライムスクエア」も同年にオープンしました。同年10月には新国立劇場で上演が開始されるのですが、その新国立劇場がある初台駅の駐輪場の設置と管理にも携わったとのことです。

はじめに森田さんのご経歴をお聞きしたとき、「土木」というカテゴリーに「自転車」というワードがうまく結びつかず、頭の中が「?」でいっぱいでした。話を聞き進めると、当時は交通政策ではなく、駅前放置自転車対策の一環として再開発に伴う駐輪場の設置・管理にも携わっていたそうです。そういった意味で、森田さんは入庁時から渋谷区のまちづくりに関わってこられたことになります。

その後、総務部総務課文書係(現・文書課文書係)で条例の制定に携わったり、総務部経理課(現・契約課)、教育委員会、法務担当など、まちづくりとは違った仕事をされていたそうです。

その間もシブヤの街は成長を続けていました。シブヤにはいろいろなランドマークがありますが、それぞれいつ誕生したかを調べると、2000年4月の「渋谷マークシティ」をはじめとして、2001年5月に「セルリアンタワー」、2006年2月に「表参道ヒルズ」、2011年4月に「渋谷ヒカリエ」がオープンしています。

IMG_20180830_134238渋谷区文化総合センター大和田

ちなみに、2010年11月に「渋谷区文化総合センター大和田」が開設されます。大通りからはやや奥まったところにあるのですが、12階にある「コスモプラネタリウム渋谷」の外観が目を引く建物となっています。

2013年、森田さんは都市計画係長となり、半年だけですが再び渋谷区のまちづくりに携わることになります。「補助60号線」という東急百貨店本店から山手線まで通じる広い道路が開通したことが印象に残っているそうです。これによって、その界隈はいろいろなお店が軒先を連ねる、ゆったりと開けた通りになりました。

IMG_20180830_154640東急百貨店本店が面する通り「松濤文化村ストリート」

2014年には安全対策課長として、「渋谷区公共の場所における客引き行為等の防止に関する条例」をつくられたとのこと。警察官やまちの皆さんと一緒に街へパトロールに繰り出し、客引き行為の指導もされていたそう。

そして、2016年10月の基本構想策定後、2017年4月に「まちマスプラン」の担当者に就任され、現在に至るそうです。一口に渋谷区の職員さんと言っても、実に様々なお仕事があるのですね。

まちづくりコンセプトの歴史

さて、ここからは時代を少し遡り、まちづくりの基本理念に関する歴史について簡単に見てみたいと思います。

みなさんは渋谷区の「しぜんとぶんかとやすらぎのまち」というキャッチフレーズをご存知でしょうか? これは1973年の「渋谷区長期基本計画」の作成から2016年に「渋谷区基本構想」が新たに策定されるまで、40年以上用いられてきた言葉で、3つのキーワードの頭文字を合わせると「しぶや」となります。

当時、渋谷区のビジョン・イメージ・スローガンを区民から公募することになり、 その応募総数は608通、1083点! 当初の見込みを大きく超える応募数の中から、「しぜんとぶんかとやすらぎのまち」のフレーズが生まれました。そして1973年の長期基本計画で、渋谷区の未来像として「『自然』と『文化』と『やすらぎ』を基調とする、地域社会及び生活環境の形成」が掲げられます。

IMG_20180830_161015代々木公園西門を入ってすぐのようす

1985年の基本構想では、「自然」は神宮の森・代々木公園に代表される自然であり、居住環境の向上のみならず魅力的な副都心づくりの視点からも重要である、「文化」は渋谷区は副都心を中心に情報・文化・教育機能が集積し、ファッションや演劇・映画・放送などの分野で国際的な文化交流拠点としての発展が期待されている、「やすらぎ」は高齢化社会への対応……といったように、徐々に具体的な意味づけがなされていきます。

「やすらぎ」のまちづくり

ここで3つのキーワードのうち、「やすらぎ」に焦点を当ててみましょう。

渋谷区政70周年を記念して発行された『図説 渋谷区史』には「安全・安心とやさしいまちづくり」という章があります。その内容をご紹介します。

渋谷区では、総人口に占める65歳以上の割合である高齢化率が、1975年に「高齢化社会」である7%に、1993年には「高齢社会」である14%に達しました。そこで区は、1994年に第1次高齢者保健福祉計画を作成、在宅生活を支える福祉サービスの拡充、入所施設や在宅介護支援センターの整備などを進めました。さらに2000年から介護保険制度が導入され、新たな高齢者保健福祉計画と介護保険事業を一体的に策定することになります。その基本理念は「いきいき、安心、支え合いのまちづくり」。特に地域社会の連帯と高齢者の自立を支援する体制づくりを進めるため、区内6つの地域に在宅介護支援センターを核とした総合的なサービス提供システムの確立をめざします。

その中心となるのが、2000年にオープンした「総合ケアコミュニティ・せせらぎ」でした。

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渋谷区公式HP「総合ケアコミュニティ・せせらぎ」
https://www.city.shibuya.tokyo.jp/shisetsu/koreisha/seseragi.html

森田さんは、この施設の所長を務められた経験もあります。こうして見ると、渋谷区の長いまちづくりの歴史のなかで、その理念のひとつである「やすらぎ」の分野における現場の最高責任者としてもお仕事をされていたことになります。

駅前での不法駐輪の解決、街頭での客引き注意なども含め、様々な「渋谷のまちの現場」を知る森田さんだからこそできるまちづくりが、きっとあるではないでしょうか。今後のまちづくりに期待です!

渋谷の未来に残したいもの

再びインタビューへと話を戻します。

長年渋谷区の行政に従事されてきた森田さん。その視点から、成長と変化の激しい渋谷に今後も残したいものをたずねてみました。

「個人的には、おいしいものを出してくれるお店ですね」とのこと。渋谷のいろいろな飲食店を知っている森田さんだけに、お気に入りのお店もかなりあるとのこと。区の職員としてだけではなく、渋谷区に暮らす生活者としての一面が垣間見えた気がしました。

「若者が渋谷の街に住み、夢を追う、そういう街であってほしいですね」とも言っていました。たとえばミュージシャンが「今から会おう」と声をかければ、すぐに会うことができる場所に仲間がいて、音を合わせることができるように。クリエイター同士、目的がなくてもいつでも会うことができる。そんな場所から、名作は生まれていく。渋谷はいつまでもそういう場であってほしいと言います。

「パリ、ニューヨーク、ロンドン、シブヤ」と、世界の名だたる都市と並び称されるまちになってほしい、「山椒は小粒だけどピリリと辛い」ということわざのように、コンパクトながらも「シブヤって、いい味出してるよね」と言われる都市になってほしいと、熱く語っている姿が印象的でした。

IMG_20180907_132659現在の渋谷~恵比寿・代官山方面への渋谷川沿い遊歩道のようす

そして明日2018年9月13日には、渋谷ストリームのオープンと同時に渋谷川沿いに遊歩道が整備され、渋谷から恵比寿・代官山に向かう散歩コースができることも教えていただきました。現在は裏通りといった感じの道なのですが、これによってオシャレな通りへと変貌することが予想されます。とても楽しみですね。

シブヤまちづくり散歩No.5 いよいよ9月13日オープン!渋谷ストリーム&渋谷ブリッジが散歩をもっとおもしろくする!

渋谷はみんなのもの

最後に、森田さんから渋谷のみなさんへのメッセージをお願いしました。

「お互いに持ってる力を出し合いましょう!」

“YOU MAKE SHIBUYA”という渋谷区のスローガンが大好きで、「渋谷はみんなのもの」と語っていた森田さん。そんな森田さんらしい、まさに渋谷区基本構想を集約したかのような、ひとことでした。

【参考文献】
・渋谷区 編『図説渋谷区史』(区制70周年記念)渋谷区、2003
・田原裕子 編著/國學院大學 研究開発センター渋谷学研究会『渋谷学叢書4 渋谷らしさの構築』雄山閣、2015
・上山和雄 編著/國學院大學 研究開発センター渋谷学研究会『渋谷学叢書5 渋谷ーーにぎわい空間を科学する』、雄山閣、2017
・ぴあデジタルコミュニケーションズ株式会社 企画制作『SHIBUYA GEOGRAPHIC』

 

イト・タクヤ

フリーライター。歴史、神社・仏閣めぐりが好き。基本は部屋に引きこもり、たまに渋谷区内を徘徊。「普段は渋谷の街を歩くことのないシブヤ初心者」として、常にフレッシュな視点からの執筆を心掛けている。というか、事実そうなので、そういう文章しか書けないというのがホンネ。シブヤ散歩新聞では、シブヤ坂散歩をはじめ、渋谷の街の歴史や文化等にまつわる記事を担当している。

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