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CULTURE

渋谷歴史散歩No.11 「笹塚跡」と「旗洗池跡」

笹塚と幡ヶ谷、その地名の由来を求めて

今回は、記者が都心へと向かう際に利用する京王線の2つの駅の名前ともなっている、渋谷区北部の2つの地名の由来を調べるため、甲州街道沿いを散歩してみました。ちなみに、甲州街道は「五街道」のなかで、ゆいいつ渋谷区を通っている道となります。

笹塚跡-かつて甲州街道に設置された一里塚?

まずは「笹塚」の地名の由来から。

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笹塚駅を出て北へ向かうと、十号通り商店街へと続く横断歩道があります。ここを渡っても目的地に行けるのですが・・・

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▲あえて甲州街道の上を跨ぎ、首都高速4号新宿線の下をくぐるかたちの歩道橋を渡ります。

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▲歩道橋を渡り左(西)に向かう階段を下りると、目的地はもうすぐそこです。

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▲立体駐車場と笹塚交番に挟まれた、北に抜ける小道があります。

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▲そのT字路の交番の向かい側、電柱のすぐそばに、渋谷区教育委員会設置の説明板があります。説明板の地番としては笹塚2丁目12番となっていますが、ちょっとわかりにくい場所にあります。

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▲これが目的地の「笹塚跡」の説明板です。

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この説明文の内容を文献によって補うと、おおよそ次のようになります。

むかし、この付近の甲州街道の両側に直径1mほどの塚があり、その上に笹が茂っており、そのため「笹塚」と呼ばれるようになりました。

この塚は江戸時代の慶長9年(1604)に大久保長安により設置された一里塚であるという言い伝えがあるものの、はたして本当にそうなのかは判然としません。ただ一里塚の印を記載した古図があり、また天保14年(1843)の『幡ヶ谷村差出明細帳』という文書にも「一里塚 村内字笹塚と申所、往来左右に御座候」と記載してあるとのこと。

しかし、時代が下って大正5年(1916)発行の『豊多摩郡誌』によると、南北の石塚が、それぞれ「濠中」と「土中」に埋れてしまって、いまは見ることができないといいます。

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▲現在、説明板の周囲にある灌木は、笹ではありません。

このように、残念ながらいまでは「笹塚」の姿はおろか、その名残すら見ることはできません。しかし、この「笹塚」がこのあたり一帯の地名となり、それが町名として現在も残っているのです。

旗洗池跡―2人の英雄にまつわるスポット

つづいて、幡ヶ谷の地名の由来です。甲州街道北側の歩道を新宿方面(東)へと向かいます。

IMG_20180625_143412中野通りと交わる笹塚交差点を渡り、さらに新宿方面へ。このあたりからしばらく、ゆるやかな上り坂となっています。

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▲京王線幡ヶ谷駅の出入口前を通り過ぎ、さらに進みます。

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▲代々木警察署の前を通りすぎ、さらに東へ。

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▲もう初台駅のほうが近いのですが、「本町1丁目7」の地番表示がある動物病院のところで左折して、狭い路地に入っていきます。

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▲通りに入ってちょっと進むと、こんな感じです。左手にレンガ造りの建物があり、奥に黄色い看板のタイムパーキングが見えます。

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▲その駐車場あたりまで来ると、こんどは左手に高知新聞・高知放送社宅の洗旗荘という建物と、その玄関先に生えいている木が見えています。

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▲その木の根元に、石碑と説明板が立っています。

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▲ここが次の目的地、「旗洗池(はたあらいけ)跡」です。生命力あふれる植物たちに覆われ少々わかりにくいですが、ご寛恕ください。

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▲「旗洗池跡」の説明板です。

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例によって、この説明文と文献から、幡ヶ谷の地名の由来について。

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出典:松平定信編『集古十種』(「国立国会図書館デジタルコレクション」より)

平安時代の永保3年~寛治元年(1083~1087)に東北地方で戦われた後三年の役を終え、上洛の途上にあった八幡太郎義家がこのあたりを通り、そのとき池で白旗(幡)を洗い、そばにあった松にかけて乾かした、という伝説があります。

あくまで関東地方に多くみられる源氏伝説のひとつであり、本当に源義家がここで旗を洗ったのかどうかはわかりませんが、この「幡」を洗った池が「旗洗池」と呼ばれるようになり、幡ヶ谷の地名の由来だとされています。

ただし異説もあって、このあたり地形が由来となって畑ヶ谷ひいては幡ヶ谷になった、ともいいます。この説は、正保元年(1644)の『田園簿』に「畑ヶ谷」という表記がみられるという史実に基づいており、これは乾田の高台であった一帯をさす先住民の口伝を文字表現したものとのこと。

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▲伝説では源義家は松の木に白旗をかけたそうですが、現在ここに生えている木も、やはり松ではありません。ちなみに、旗のほうは現在でも残っているようで、渋谷駅近くにある金王八幡宮の社宝となっているのがそうだといいます。

さて池についてですが、この池は60㎡ほどの大きさの自然湧水で、肥前唐津藩小笠原家の邸宅内にあり、余水は神田川に注いでいました。しかし、年々水量が減少し、水道で補水するなどしていましたが、残念ながら昭和38年(1964)には埋め立ててしまったといいます。

そのため、今は池の姿を見ることはできませんが、明治39年(1906)4月設置の「洗旗池」と書かれた記念碑が残っています。

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???

▲池の名前が書かれているはずなのですが、一見したところ、何も書かれていません。

おかしいなぁ、と思いつつ裏にまわってみると・・・

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▲たしかに書かれていました! 次のように書かれています。

洗旗池
丙午四月遊小笠原邸書
海軍大将東郷平八郎

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▲また道路に面したほうにも、よく見ると下のほうに「石材旧唐津藩 有志者寄贈」とありました。どうやら、こちらは記念碑の裏面だったようです。

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▲渋谷区教育委員会さんの説明板ですら訂正した形跡がありますので、念のため確認しておきます。

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▲石碑に書かれている文字は「洗旗池」です!!!

上述したように、この揮毫は東郷平八郎によるもの。

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出典:「近代日本人の肖像」―「東郷平八郎」

▲東郷平八郎といえば、日露戦争でロシアのバルチック艦隊を破った英雄です。生前は海軍元帥に列せられ、死後は神様として祀られ、現在でも渋谷区神宮前にある東郷神社には参詣者が絶えません。つまり、シブヤの地におわします神様でもあるのです。

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▲すると、このモニュメントは神様の残してくださった貴重なサイン?

それはともかく、かつてこの石碑があったという屋敷の主、小笠原長生は海軍軍人として東郷平八郎の秘書官を務め、その伝記を書いた人物です。おそらく、そういった縁もありこの碑文が書かれることになったのだと思われます。

以上見てきたように、ここは源義家と東郷平八郎という、中世と近代の2人の英雄にゆかりのあるスポットとなっています。

人と車の往来がはげしく賑やかな甲州街道ですが、ちょっと脇道にそれると、その土地に関する歴史がひっそり、静かに眠っています。渋谷区にある2つの地名の由来をめぐって、皆様もぜひ散策してみてはいかがでしょうか?

【余談】
今回、記者は笹塚駅からスタートして、おおむね甲州街道を西から東へと歩き、帰りは初台駅を利用させてもらいました。逆に、初台駅から甲州街道沿いの散歩コースがこちらです↓

渋谷ササハタハツ散歩 No.15 初台から甲州街道を歩いたら、街の歴史と息吹を体感できました

【参考文献】
『渋谷区の歴史』(東京ふる里文庫11)名著出版、1978
『渋谷区史跡散歩』(東京史跡ガイド)学生社、1992
『渋谷むかし口語り』渋谷区教育委員会、2003

 

【参照URL】
「国立国会図書館デジタルコレクション」http://dl.ndl.go.jp
#バナー国立国会図書館デジタルコレクション

「近代日本人の肖像」http://www.ndl.go.jp/portrait/
バナー近代日本人の肖像(大)

 

イト・タクヤ

フリーライター。歴史、神社・仏閣めぐりが好き。基本は部屋に引きこもり、たまに渋谷区内を徘徊。「普段は渋谷の街を歩くことのないシブヤ初心者」として、常にフレッシュな視点からの執筆を心掛けている。というか、事実そうなので、そういう文章しか書けないというのがホンネ。シブヤ散歩新聞では、シブヤ坂散歩をはじめ、渋谷の街の歴史や文化等にまつわる記事を担当している。

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