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CULTURE

渋谷歴史散歩No.10 日本初飛行の地

すっかり寒くなってきましたが、そんな冬の日こそ歩いて体を温めるのもいいかもしれません。冬枯れの季節に、あえて代々木森林公園を散歩するのも乙なものです。

ところで今日、12月19日は「日本初飛行の日」なのですが、この事と代々木公園には意外なつながりがあります。

代々木公園にある謎の巨大モニュメント

代々木公園に原宿門もしくは渋谷門から入り左手(西側)に進むと、分かれ道の足元に小さな道標があります。

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▲よく見てみると矢印の下に「日本航空発始之地記念碑」と書かれています。

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▲そこで、矢印の方向に進んでみると、なにやらモニュメントが見えてきました。

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▲鳥の形でしょうか?

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近づいてみると、灌木の向こう側に「日本初飛行の地」と記された標識と巨大なモニュメントが!

日本初飛行の地は代々木公園にあり!

この説明板の内容は以下のようなものになっています。

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明治43年(1910)12月19日に、ここで日本航空史上最初の飛行がおこなわれ、そのときの操縦者は陸軍大尉の徳川好敏と日野熊蔵。ここにある「日本航空発始之地記念碑」を建立したのは朝日新聞社、設計・今井兼次、彫刻・泉二勝磨とのこと。

興味を覚えたので文献にあたって調べてみたところ、次のような歴史がありました。

そもそも、いま代々木公園がある地は、かつて代々木練兵場という日本陸軍の施設でした。その代々木練兵場が開設された明治42年(1909)に陸・海軍大臣のもと「臨時軍用気球研究会」(以下、気球研究会)という組織が発足し、軍部による航空機についての研究がはじまります。しかし、いまだ国産機の生産までには至りません。

そこで気球研究会は航空機を外国から購入する方針をとり、徳川好敏歩兵大尉と日野熊蔵工兵大尉をヨーロッパに派遣して航空機の購入と操縦法の研究を命じました。両名は4月に出国し、わずか半年ほどの間に操縦法を覚え、10月に帰国します。その際、徳川好敏はフランスでアンリ・ファルマン式の複葉機を、日野熊蔵はドイツでハンス・グラーデ式の単葉機を購入しています。その機体は11月に日本に到着、中野の気球隊に運ばれ組み立てられたそうです。

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日本初飛行の地にある日野熊蔵(左)と徳川好敏(右)の像

いっぽう、気球研究会では試験飛行の検討が進められました。場所は、はじめ所沢飛行場が予定されていましたが地質的に適していませんでした。そこで代々木練兵場が選ばれたのです。また期日は明治43(1910)年12月13日から19日までの1週間と定められ、新聞各紙によって飛行実験の日程が公表されます。この1週間、会場には30~50万人の見物人が集まったといいます。

そして、徳川好敏が操縦するアンリ・ファルマン式(以下、徳川機)と日野熊蔵が操縦するハンス・グラーデ式(以下、日野機)の航空機による試験飛行の様子は、おおよそ次のようなものでした(*飛行データは文献・資料によって異なります)。ちなみに、前日の12日に中野の気球庫にあった飛行機が分解され夜中に代々木練兵場まで運びこまれました。

13日。飛行機を組み立て試験運転を開始するも、エンジンがかからず。理由は、整備士が電極を誤ってプラグを差し込んでいたため。
14日。2機とも何度も地上滑走を繰り返すがエンジンの回転数があがらず。日野機は滑走直後に横風を受けて右翼を破損、3時間半を修理に費やす。午後にまず高度1mで距離30m、次いで高度2mで距離100mを飛行。
15日。両機とも横風、突風で破損。
16日。日野機は2回めに高度3m、距離100mを飛行。
17、18日。強風のため中止。
19日。早朝から調整にはいっていた2機のうち、日野機はエンジンが不調。徳川機は滑走からフワリと浮かび、上昇。さらに高度を上げて左に旋回し、原宿あたりから南豊島御料地(現・明治神宮)を経て、会場を1周して着陸。正午すぎには日野機も高度45m、距離1,000m、滞空時間1分の飛行に成功。

最終日に会場を1周した徳川機による高度70m、距離3,000m、滞空時間4分の飛行が日本の初飛行として公式に記録されることになり、12月19日が日本初飛行の日ということになりました。

かくして、ここ代々木公園に「日本初飛行の地」が存在するわけです。

初飛行の地に建立された日本航空発始之地記念碑

せっかくなのでモニュメントをよく見ておきましょう。

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▲左のほうに行くと茂みが途切れているので、記念碑にもっと近づいてみます。

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▲「日本航空發始之地」と刻まれた題字の上にある像は、やはり鳥を象ったもののようです。

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▲右の方に行ってみると、土台部分にも鳥のレリーフが。その後ろの方になにやら小さな標柱が見えたので確認してみます。

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▲「日本初飛行離陸之地」とあります。左にある四方を石で囲まれた四角い標点が離陸地点かと思われます。ただし、試験飛行の会場をはじめ、初飛行の出発点・停止点ともに記念碑がある場所ではなく、もっと原宿門よりの地点のようです。

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▲記念碑の後ろにまわってみると、朝日新聞社による碑文が。初飛行以来、大正末年まで飛行機のほとんどがここで離着陸したこと、第1回訪欧飛行の壮挙もここが起源であることなどが記されています。文末の日付によると、この記念碑は昭和15(1940)年12月に建立されたようです。この年は、碑文冒頭の「紀元二千六百年ヲ記念シテ」からピンとくる人もいるかもしれませんが、日本海軍のほうで有名な「零戦」が制式採用された年ですね。碑文後半の文章からも、風雲急を告げるなか戦意発揚のために記念碑がつくられたことがうかがえます。

日本初飛行の地に並び立つ徳川好敏と日野熊蔵の像

記念碑から見て右前方のあたりには、説明板にも記載されていた、初飛行のパイロットを務めた徳川好敏と日野熊蔵の胸像があります。

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▲徳川好敏の像。

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▲徳川好敏像の背面にある銘板。「誠実 謹厳 航空に生涯を捧げた」にはじまり「日本の空に人間飛翔の歴史をつくった」でおわる赤城宗徳による文。像の製作者は鋳金家の市橋敏夫。

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▲その下には、徳川好敏自身の筆跡と思われる「至誠 通神」の文字。おそらく「至誠は神に通ずる」と読みます。

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▲日野熊蔵の像。

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▲日野熊蔵像の背面にある銘板。「翁は熊本の産 豪放磊落」ではじまり「不屈の精神は次代の青少年の範とすべきである」でおわる松野頼三による文。こちらの銘板にはありませんが、記念碑前の説明板によると製作者は小金丸義久です。

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▲その下には日野熊蔵自身が作詞した『飛行機唱歌』の歌詞が刻まれています。作曲者の岡野貞一は『春の小川』の作曲も担当した人ですね(参照:渋谷歴史散歩No.2 春の小川記念碑 )。最後には日本航空発始之地顕彰保存会・航空碑奉賛同人会の署名が。

 

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▲日野熊蔵像のほうには、側面にも文字が刻まれています。この文章は、なにか記者の胸を打つものがありました。

ところで、徳川好敏には『日本航空事始』という著書があります。その中の初飛行を回想した章で、次のように述べています。(以下、徳川好敏『日本航空事始』出版協同社、p.69から引用。一部、漢数字を算用数字に改めた。)

この代々木の初飛行が無事になしとげられたのは、全くの天佑神助ともいうべきであろうが、しかしそれよりも、なんといっても臨時軍用気球研究会の会長以下各委員、上官、同僚、部下、なかでも直接飛行機の整備に寝食を忘れて尽してくれた技手や兵たちのおかげである。私は、以来、12月19日が来るたびに、これらの人々のことを想い出して感謝の念を新たにしているのである。

胸像がつくられ顕彰されている2人の操縦士だけでなく、多くの裏方をつとめた人たちの活躍があってこそ、日本の初飛行が成し遂げられたのだということを、我々は銘記すべきなのかもしれません。

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百年以上も前に、この冬空を日本で初めて航空機が飛んだ。その姿を想像しながら、皆さんもぜひ代々木公園を散歩してみてください。そして、園内にある「日本初飛行の地」を訪れ、その飛行を実現させた人々に思いを馳せてみてください。

【余談】

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▲記念碑の「日本航空發始之地」の題字の左に、「陸軍大将井上幾太郎書」という揮毫があります。この井上幾太郎という人物は、記事本文で引用した徳川好敏の『日本航空事始』に序文を寄せています。

なお『日本航空事始』は、貸出禁止ではありますが、渋谷区立中央図書館に1冊所蔵されています。中央図書館までは代々木公園の原宿門から歩いて行ける距離ですので、興味がある方は散歩がてら館内で閲覧してみてください。

ちなみに、以下の参考文献も中央図書館に蔵書があります。

【参考文献】
相川貞晴・布施六郎『代々木公園』(東京都公園協会監修・東京公園文庫27)郷学舎、1981
佐藤昇『渋谷区史跡散歩』(東京史跡ガイド13)学生社、1992
渋谷敦『日野熊蔵伝―初飛行のパイロット―』(改訂版)たまきな出版舎、2006
徳川好敏『日本航空事始』出版協同社、1964
林陸朗『渋谷区の歴史』(東京ふる里文庫11)名著出版、1978
『企画展 渋谷で飛行機が飛んだ』白根記念渋谷区郷土博物館・文学館 、2010

 

イト・タクヤ

フリーライター。歴史、神社・仏閣めぐりが好き。基本は部屋に引きこもり、たまに渋谷区内を徘徊。「普段は渋谷の街を歩くことのないシブヤ初心者」として、常にフレッシュな視点からの執筆を心掛けている。というか、事実そうなので、そういう文章しか書けないというのがホンネ。シブヤ散歩新聞では、シブヤ坂散歩をはじめ、渋谷の街の歴史や文化等にまつわる記事を担当している。

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