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CULTURE

渋谷坂散歩No.12 天狗坂

渋谷には、「天狗」の名を冠した坂道があるとのこと。はたして、妖怪の天狗に関係があるのでしょうか?

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位置は八幡通りを山手線上の架橋を渡ってから、渋谷駅の方向へと右折する、猿楽町の2番と3番・5番との境界にある通りです。この坂道を下りると、山手線沿いに渋谷駅まで行くことができます。

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傾斜が急になっている場所の壁際に渋谷区教育委員会の案内板があります。

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妖怪の天狗にまつわる話をイメージして来たのですが、どうやら人物の名前に関係があるようです。といっても、本名ではないようですが。

豪快な実業家・岩谷松平の異名に由来

この坂道の名前の由来となった「岩谷天狗」こと岩谷松平(いわたに まつへい)は、幕末の嘉永2年(1849)に誕生、出身は現在の鹿児島県川内です。明治10年(1877)に上京し、銀座に紙巻煙草の岩谷天狗堂を設立します。紙巻煙草を売り出したの彼が最初とも。そのタバコの銘柄に「金天狗」「銀天狗」と命名したといいます。

また、彼は豪放磊落な性格だったようで、「国益の親玉」「驚く勿れ税金たった三百万円」「慈善職工五万人」など宣伝文句が書かれた大看板を出します。明治38年(1905)に、タバコの専売制が実施されると、この付近に約1万3千坪(約4,3000㎡)もの土地を購入し、養豚場を開くなどしました。そのとき銀座からこの地に移って来たわけですが、邸宅は真っ赤に塗られ、自身も赤い帽子をかぶり、赤い服を着て、赤い馬車に乗り、衆目を驚かしたといいます。

ちなみに、孫娘にも赤という意味の「赫」の字を使い命名しており、その孫娘で女優である森赫子(もり かくこ)の回想よると、その邸宅には愛妾が10人近くおり、そして岩谷の「子供や孫は五十何人もいて、五十二郎というのが私と同じ年の男の子の名前だった」とのこと。もはや「子宝に恵まれて」などというレベルではありません。

このように、やることなすこと全てがまさに桁外れ、豪快な商売人である岩谷ですが大正9年(1920)に永眠します。

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▲坂の中腹には、「てんぐ坂車止」と書かれた石造物があります。

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▲裏には、この車止めを建造したと思われる人物の名前が。

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▲坂の傾斜はこんな感じです。ちょっとわかりにくいかもしれませんが、けっこう急な勾配です。

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▲坂下からの様子です。

残念ながら(?)妖怪の天狗はいませんでしたが、かつて渋谷に暮らした豪傑ともいうべき人物の存在を知らしめる坂道が、そこにはありました。

【余談】

渋谷歴史散歩 No.8 猿楽古代住居跡公園」で紹介した廿三夜塔や庚申塔などは、もともとこの坂上左手にある邸内で保存されていたようです。

廿三夜塔説明板(天狗坂上)

塔がいつ頃から公園に移されたかは定かではありませんが、昨年(2016年)の夏の時点では、「庚申塔 廿三夜塔 地蔵塔」と題された渋谷区教育委員会の説明板がありました。これも現在は撤去され、かわりに以前お伝えしたように公園の奥のフェンスに「廿三夜塔 庚申塔 道しるべ」という説明文が張り出されています。

歴史的遺物もまた、さまざまな事情で移動が余儀なくされることがあるようです。無暗に無関係な場所に移されてしまうのも考えものですが、こうした変化を楽しむのも、シブヤという街を散歩する醍醐味なのかもしれません。

 

【参考文献】
『渋谷区の歴史』(東京ふる里文庫11、名著出版、1978)
『渋谷区史跡散歩』(東京史跡ガイド、学生社、1992)

 

イト・タクヤ

フリーライター。歴史、神社・仏閣めぐりが好き。基本は部屋に引きこもり、たまに渋谷区内を徘徊。「普段は渋谷の街を歩くことのないシブヤ初心者」として、常にフレッシュな視点からの執筆を心掛けている。というか、事実そうなので、そういう文章しか書けないというのがホンネ。シブヤ散歩新聞では、シブヤ坂散歩をはじめ、渋谷の街の歴史や文化等にまつわる記事を担当している。

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